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『家族以外の人から言われる「おかえり」に対する返事が難しい』の回

小学生のころ、家に帰るとクラスメイトの母親が自分の母親とお茶をしていることがたまにあった。そうすると、わたしが家に帰って来たのに気がついたクラスメイトの母親たちは、決まって「おかえり〜」と言ってくるのであった。わたしはあれがめちゃくちゃ苦手だった。

自分の母親じゃないから「ただいま」って言うのはなにか馴れ馴れしい。あなたたちの息子さんとは普段仲良くさせてもらってますけど、あなたたちとはそれほど仲良くはないですからね。なんならここはわたしの家であり、あなたたちの家ではない。「おかえり」っていうのはその家に住んでいる者が言うべき言葉であり、ここであなたたちが言うべき正しい挨拶は「お邪魔してます〜」やろがいっ。とまでは思わなかったけれど、まあなんにせよ苦手であった。だからもう返事とかは「フェエ」みたいな、とりあえずなにかしらの空気を出す感じで返していた気がする。照れ屋さんだね。

そして、そこから続く展開も苦手であった。わたしの家では、帰ってくるとすぐに手洗いうがいをすることを徹底されていた。だから、わたしは家に帰ってくるとすぐにランドセルを下ろして手洗いうがいをしていた。そうすると、またもやマダムたちはそんなわたしの様子を見て「帰ってきてすぐに手洗いうがいするなんてえらいなぁ」と言ってくる。それに対して、わたしはまたもや「フェエ」と返す。褒めるのやめて、照れるから。

そして、我が家では遊びに行くのも宿題を終わらせてからと教育されていたものであるから、手洗いうがいを終わらせると、わたしはすぐにランドセルからドリルを取り出して宿題を始めていた(「3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?」というネコのアニメのドリル)。するとまたもやマダムたちは「帰ってきてすぐ宿題してえらいなぁ」と寄ってたかって言ってくるのだ。フェエ。照れんねん。

「ウチの子は全然宿題せんわ」と続くマダムたちの会話。『たしかにお宅のサトシはあんまり賢くないな』などと会話を盗み聞きして思うが、小学生のころなんて賢さよりも面白さのほうが重要であったから、そんなことは全然気にはならなかった。面白ければ、それで最高。

そんな風に小学生時代に困っていた問題、実は今でも続いている。社会人になった今、わたしに「おかえり〜」と言ってくるのは、マダムたちから住んでいるマンションの大家さんに変わった。わたしが会社から帰ってくると、マンションの入り口を大家さんが掃除していることがある。そのとき大家さんは決まってわたしに「おかえり〜」と言ってくる。

わたしもいい大人である。「フェエ」なんていう曖昧な返事で濁すようなことはしない。けれども「ただいま」は相も変わらず恥ずかしい。だってタメ口やもん。でも「ただいま帰りました」は堅すぎる。執事かって感じよ。そこでわたしは毎回「こんばんは」と答えることにしている。いい落とし所を見つけたもんよ。流石は大人になったもんだ。思えば小学生時代も「こんにちは」という返事を知っていれば、絶妙に距離を取りつつもしっかりと挨拶を返すことが出来ていただろうに。まあ過去は変えられないからしょうがない。今は上手く返せているから良しとしよう。

ただひとつ思うことがある。大家さんは、本当はわたしに「ただいま」と言ってほしいかもしれないということだ。自分は「おかえり〜」と言っているのに、相手から「ただいま」とは返ってこない。これ、もしかして大家さんに寂しい思いをさせてる? え〜、どうしよう。でも「ただいま」は恥ずかしいしなあ。今度一回言ってみる? ・・・。いや無理やな、絶対無理。いつか言える日が来るといいけど、今は無理です。またまだShyness Boyなんで。


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