【短編小説】アレとか。コレとか。
向こうからおじさんが口笛を吹いて歩いてきた。
彼は、まるでなにかすばらしいものでも見つけたように、大きく目を見開いて、わたしのほうへやってきた。そして、
――あんたはどこから来たんだね? と訊いた。
――アメリカですわ。
と、エミリーがいった。
――すると、ニューヨークかね?
――いいえ、ちがいますわ。でも、もうじきそうなるはずでしたのよ。
――すると、シカゴかい?
――ええ、そうですわ!
――そいつあすごいや! わしはずっと前に、シカゴにいたことがあるんだよ……ああ、そうだ、思い出したぞ! あの時分、わしはあそこに一年ばかり住んでおったんじゃ。
――まあ、ほんとうですかしら!
――うん、ほんとうだともさ。それで、あのころのことを思い出すと、今でもたまらなくなることがあるんだが、あそこにはずいぶんひどいことがあってのう。
――どんなことですの? と、エミリーがたずねる。
――むろん、いろいろあるともさ。なかでもいちばんひどかったのは、アレだアレ。
――なんですの?
――アレだよ、ほれ、あの……いや、どうもうまくいえなくて困るがね。
――なんだかわたくしにはよくわかりませんけど、とにかくたいへんなことだったのでしょうね。
――ああ、それはもう大変なことだったよ。
と、おじさんはいった。
――それで、どうなすったのですの?
――それきりさ。
――ふ~ん、それっきりなんですね。
――その通りさ。まあ、そんな話はどうでもいいさ。それよりあんたたち、この辺では見かけない顔だが、どこへ行くところかね?
――あんたたち?ここには私とあなたしかいないでしょ。
――そりゃそうだが、ほかに誰かいるみたいじゃないか。
――あら、誰もおりませんわ。だって、ここに来るまで、ひとりとして会いませんでしたもの。
――しかし、わしには見えるんだがねえ。
――きっと疲れているんですよ。
――そうかなあ。ところで、あんたらはふたりだけかね?
――ふたり?だから、私たちのほかにはだれもいないって申し上げたじゃありませんか。
――うーん……ちょっと待ってくれよ、お嬢さん。そうじゃないんだよ。ほら、やっぱりそうだ。あんたのすぐ後ろにくっついている男がもう一人いるぜ。
――あら、まあ、ほんとうだわ!
――まったく妙な話だわい! 幽霊が人間と一緒に歩いているなんてな!
――ほんとうですわね!でも、これは夢ですからね。きっとこんなことが起りますわ。
――なるほど、夢の中ならなんでもできるわけだな! しかも、わしも幽霊だがね。
――奇遇ですわ。私も幽霊ですの。
――おお!こいつは驚いた! あんたは美人だし、それに若いときのままの姿で出てくるとはなあ!
――ありがとうございます。
――ところで、あんたたちはどうしてここに来たのかね?
――私たちは……あら!
――どうしたんだい?
――ええ、それが、すっかり忘れてしまったんですの。
――そいつはいけねえな。わしなんか覚えていなくちゃならないことは、一つ残らず全部覚えておるよ。アレとか。コレとか。ソレとか。それから、コレとかね!
――あら、ソレとアレをいっしょになさるのはやめてくださいましな。
――いや、冗談だよ。しかし、あんたのほうはどうだい?
――私のほうは、何もかも思い出しましたわ。アレとか。コレとか。ソレとか。それから、アレとかね。
――ああ、それはよかったな。
あとがき
本文は「AIのべりすと」で作成、挿絵はLINEの「お絵描きばりぐっどくん」で作成しています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?