手つかずの架鉄


蒸気機関車を1から考えるのは想像以上に難しいです


 架鉄をWebに公開し始めてから20余年、いまだ手を出していないのが蒸気機関車です。とにかく徹底的にあの手この手で蒸気機関車を歴史から排除するくらいに蒸気機関車を避けています
 蒸気機関車が嫌いなわけではありません。むしろ機械としてはこれほど面白い題材はないくらいに思っていますが、これを架鉄の材料とするのはまずとにかく難しいんですよ。俺の手には負えません
 何が難しいか
 国鉄の機関車のスペックには確かに、たとえばC62形式なら12,058kgなんて書いてありますから、なるほどトルクはそのくらい出せるのかという目安になります
 しかし、例えば1地方の民鉄をやる場合「どこの石炭を使うか」で出力はかわりますよね? 筑豊炭なのか夕張炭なのか、はたまた常磐炭なのか。石炭は産出された地域でカロリーが異なります。最高級のウエールズ炭と常磐炭とでは、下手したら2000kcalくらいかわってしまいます。つまり出力を算定するのがまず難しい。路線を設定してそれに最適化された出力を出すのにまず、石炭の質から考えなければいけないわけです
 石炭を例えば「どうせ架空鉄道なんだから6500kcalで決め打ちだ!」としましょう。次は機関車の構造で詰みます。「200tくらいの列車を65km/h程度で走らせたい。勾配は12.5‰で最小曲線は300R。許容軸重は12t」みたいな路線を考えたとき、すんなりと蒸機を設計できますか? 俺はできません
 もろもろの機器を込みで50t程度としてこれを軸重12tに収めたい。12.5‰の勾配があるなら3軸は欲しい。0-6-0か? これだと軸重17t。ちょっと無理がある。300Rを0-6-0で走るのもどうかと思うから2-6-0か? 軸重12.5t。そうするとボイラと架を溶接構造にしてなんとか車重を45t前後までシェイプアップすれば。火室の大きさはどうなる? 給水距離を考えたとき火室は何平方メートル必要だ? そうなると2-6-2にする必要があるのか? でもそうするとトルクの確保ができない…などなど
 それ以前に蒸気圧をどうするよ? 12kg/cm2くらいを漠然と考えているとして、それを出すための水と石炭、そして給炭能力は問題ないかとか、とにかく考えることがいろいろありすぎて手に負えません。もちろんそんなことてっきとーにごまかせばいいじゃん、というのはあるのですが、俺は仮にも車両のメカが大好きな人間です。そこにデタラメをぶち込むことはやっても、正確な理解なしにはデタラメをぶち込むことはできません
 個人的には0-6-0インサイドシリンダで「先輪がないのにスムースな旅客輸送」なんてのをやってみたい思いもありますが、蒸気機関車でそれが許されるにはかなり軌道構造を強靭にしないといけない。なので妥協に妥協を重ねて結果として自分の理想からかけ離れた機関車ができる。それはいい。美しい機関車とは機能に最適化された機関車なのだからそれはまったくもって問題ない
 問題は、そこに至るまでの距離が電車の比じゃないんですよ。蒸気機関車に比べれば電車や電関は本当にシンプルです。シンプルゆえに覇権を取ったのですからそれは当然なのですが、とにかく構造が複雑で、素人の手におえるものじゃない(電車だってシロウトの手に負えるものではないと思いますが、蒸気機関車よりははるかに楽です)
 こういったこともあって俺は蒸気機関車を避けているわけですが、それでもいずれ、「0-6-0インサイドシリンダの高速機(インサイドシリンダならクランク構造で位相を180度にすることができるので、スムースな回転が期待できます。アウトサイドシリンダではこうはいきませんが)」なんてのをやってみたなあとは思うのですが…思うのですが!
 蒸機架鉄、自信ねえなあ