デザインとは「問題の解決法」


電車を降りたら目の前に柱。これはダメなデザインです

 架空鉄道の世界を構築する際、いろいろとデザインしなくてはなりません。俺はデザインとは「問題の解決法」と定義しており、あるものを動かす際に発生する様々な問題をどう解決していくか、これを考えることを「デザイン」としています
 たとえば川崎LRTでは「電車に乗るまでのバリア」という問題をLRTで解決しています。目的地から駅までの階段・段差をいかに少なくし、体力のない人でも気軽に電車に乗れることが移動の円滑化につながるわけですから、そこに立ちはだかる障害を解決するのが「問題の解決」でありデザインなわけです
 たとえばホームに入る際、車いすでも容易にホームにアクセスできるようスロープを設置します。その際建築基準法では1/8(125‰)、交通バリアフリー法では1/12(84‰)以下と定められています。この勾配制限はホームの高さがもろに効いてきて、たとえば首都圏のホーム高さ1100mmをスロープで上るには13.2mもの斜辺になりますが、これが路面電車並みの300mmまで低くすれば3.6mまで詰められます。つまり低床車は「移動制約者に対する問題への解決として有効なデザイン」となるわけです
 電車の正面デザインも、感性によるかっこいいカッコ悪いではなく「問題の解決」というデザインによって詰めていきます。今回採用する低床車は新潟トランシスのブレーメン型です。ブレーメン型はオーバーハングが大きく、旋回中心から運転台までの距離がかなり長いんですね。慣性モーメントはこの距離の二乗で効いてきます(I=mr^2)ので、オーバーハングをできるだけ小さく取る。こうすることで余計な首振りを抑えることができます。間違っても「かっこいい流線型」なんてのはデザインではありません。ただのスタイリストのお遊びです
 もちろんスタイリストのお遊びを否定するつもりはありません。いや、むしろ商業施設としてはものすごく重要です。なぜならそれは「この電車に乗ってみたい」という商品力になるからです。
 どんなにデザインに優れていても「乗ってみたい」と思わせる商品力がなければ何の意味もありません。商業施設は使われて儲けを出すことが正義なのですから。だからスタイルにもデザインと同じくらい力を入れるのは大事なことです
 ですから、架空鉄道のシステムを考える時はまず「問題の解決」という骨格を決定し、「利用してみたい」とお客さんに思わせるようなスタイリングというコスメティックを考える。この順序で考えていけば、それなりにかっこいいものができるんじゃないかな? と思っています
 まあ、俺の考える架鉄車両がかっこいいかどうかはまた別の話ですが、デザイン系の架鉄を考えるならば、「そこにあるねじ1本に至るまですべての物に理由が存在する」くらいの気持ちで考える心構えで作ってみるのもいいのではないでしょうか。たとえばサインシステムなんか架鉄で流行っていますが、「行先の文字が190ポイントである理由は何? これ以上大きくても小さくてもダメなの」と言われてもちゃんと明確にその理由をこたえられる。「この色である理由は何? 地色が黒でないといけないデザイン上の問題って何なの」って言われても即答できる。ここまできっちりと「デザイン」されていれば、デザイン系架鉄の面目躍如といったところでしょうか
 デザインに感性の入る余地はありません。そこにある寸法がすべてです。この骨格がしっかりしていないと、どんなに化粧を施したところで出来上がるのは「不気味な何か」です