3つのモータと3つのギアリング

 スパイスは意図して使うと料理に深みを出しますが、何も考えずにぶち込むとロクな結果になりません。架鉄において車両スペックっていうのはいいかえれば「スパイスの使いどころ」が問われるところじゃないかと思います
 たとえば今時の電車では、モータ出力は140kw・165kw・190kwの3つの中から選びます。電装メーカーもこうやってある程度規格化して、製品価格を下げているわけですね。逆に言うとモータ出力でこの3つ以外の数字を採用しているということは、何か特別な理由があるというわけです
 「特別な理由」で思いつくのはJR西日本の0.5M車でしょうか。JR西日本はモータ出力を270kwに選定していますが、おそらくこれは特急用から一般用までの広いパワーバンドに対応するためだと思います。専用のモータと専用のコントを作るわけですから価格はお高めになりますが、JR西日本という巨大な企業体がシステムを1種類に集約できるメリットは計り知れません
 ちなみに単に「一般用の0.5M方式」が必要であれば、140kwあれば十分です

「システムを1種類に集約する」というコンセプトからJR西日本はメーカーの既製品を採用せず独自仕様を貫いている


 逆に言うと、こういった特別な理由がなければモータ出力なんて上の3つから選ばれます。ですから架鉄で車両を考える時、特に理由がなければモータ出力は140kw、165kw、190kwの三択であると覚えておけばいいと思います
 で、何も考えずにここの数字を適当に、たとえば200kwにしてしまったとすると「スパイスを適当にぶちまけた」結果になってしまいますが、「ノンストップ区間が長く連続定格を確保する必要がある」という設定が前提にあるなら、200kwは190kwモータに熱量の余裕を足したものと解釈できて「スパイス」たりえるわけです
 そうなるとギアリングはいくつくらいが適正でしょう。97:16=6.06だと130km/h運転を前提とした特急型のイメージになりますね。何となればもう一段浅くして96:17=5.65でもいいと思います。コンセプトが明確化するとスペックはそれに合わせてどんどん動いていきます
 逆にギアリングを99:14=7.07まで深くすると今度はMT比を極限まで下げた経済通勤車になります。4M6Tで33‰を駆け上がる地下鉄電車を経済的に設定できる組み合わせ(ただしコントは個別制御推奨。これについてもいずれ語りたいと思います)ですね。これだと最高速度はいいとこ110km/hですが、地下鉄用ならこれでいいわけです
 ただし相互直通で足の速い民鉄線に直通するとなるとまた話が変わってきます。そうなると5M5Tでギアリング6.53あたりを選ばざるを得なくなり、経済性という面でう~ん…となるわけです
 このように、現代の電車であれば「基本となる数字」があることを念頭に置いて、特別の事情がある場合に「敢えてそこを外す」というスパイスを使うといいんじゃないかと思います。ギアリングも現状、97:16=6.06、98:15=6.53、99:14=7.07の3つから選べばいいでしょう。3つのモータと3つのギアリング。これを適宜組み合わせればMT比1:1の都市近郊系の電車ならだいたい成立します
 標準的な重さの通勤電車なら165kw/6.53を基準に、スパイスとしての特殊事情を加味してモータ出力やギアリングを動かしていきます。それでも「その路線に性能的に見合わない」となった時点で初めて数字をいじればいいんじゃないかなと思います
 今回上げた例はあくまでも2010年代以降のVVVF車に限った例で、それ以前のVVVF車やDCモータの電車には適用できませんが、架空の電車を設定する際に、頭の片隅にとどめておくと便利です

平坦線で最高速度120km/h想定、駅間距離2km前後なら165kw/ギアリング6.53で問題ないと思います。画像はそのスペックを採用している東武50090型