見出し画像

〜緊迫の19分〜 『フリー・フォール』

短編映画の良いところの一つは、その分かりやすいメッセージ性である。

長編映画だと伝えたいことを表現するのに、2時間くらいかけて観客に情報を蓄積していき結末へと向かえるが、短編だとそうはいかない。20〜30分、短いものではそれより少ない時間で伝える必要がある。ゆえにインパクトの大きいシーンが入ったり、オチが付いたり、短編映画においてそのメッセージの存在感は大きくなりやすい。

金融トレーダーの壮絶な駆け引きを描いた『フリー・フォール』もその例に漏れない作品だ。

主人公のトムはロンドンでトレーダーとして働いているが、成績不振で先輩と上司から目を付けられており、前日に大きな損失を出していた関係で「絶対に不利益を出すな」と命じられる。その日は2011年9月11日、ニューヨークで同時多発テロが発生した日だ。

1機目の墜落のニュースを受けて、トムの社内も騒然となる。この時点ではまだ事故だと思われている。しかし、これがもし「テロ」だった場合、株価がどんどん下がっていくと考えたトムは、上司に「空売り」を打診する。

株式を購入して、そこから株価が上がった時に売却すると、差額が利益になるというのは多くの方もイメージできると思うが、株取引ではその逆も可能で、それが「空売り」と呼ばれる手法である。つまり株価が下がっていくと予想すれば、先に株式を売却しておいて、安くなった時に買い戻せば差額が利益になる。「空売り」で取引する場合は、株価が下がれば下がるほど利益につながるというわけだ。

タイトルの『フリー・フォール』は、飛行機の墜落と株価の下落にかけたダブルミーニングになっているが、主人公のトムは墜落が「テロ」だと判別する前に、株価が下落する方に賭けるのである。

この作品は事実をベースに作られているので、観ている観客は、当然これがテロによる事故だと知っている。次に何が起きるかを知っているからこそ、その出来事に対して主人公がどのようなリアクションを起こすのか客観的な視点を持てるし、軽くはない緊張感が画面から終始漂っているのを感じ取れる。

そして冒頭述べたように、この映画のメッセージは分かりやすく、そしてかなりストレートなものだ。そのメッセージは、客観的視点になれたからこそ得られるものである。この映画で主人公に感情移入しない、主観的にならない(なってはいけない)理由は、作品を観ればお分かりいただけると思う。

短編変映画とノンフィクションのメリットを上手く使って観客の視点をコントロールした緊迫の19分、ぜひとも体感してほしい。

                                                                                       <DJ GANDHI(芦田央)>