トップヘアピースというアイテム

先日、髪を切った。
およそ八ヵ月ぶり。
伸び放題で、毛先がホウキのようにぼさぼさになっていた髪をセミロングくらいに切ってもらって、トリートメントもしてもらった。

抜毛症が進行している。
髪を切ってもらったときは、頭頂部と前髪の辺りがまあまあ薄くなっていた。
仕事に行くときはシェーディングパウダー的なもので誤魔化してはいるが、正直誤魔化せてはいないと思っていた。
ヘアサロンの予約をするときに「帽子かポイントウィッグを着けて退店したい」と書いて、実際帽子をかぶってサロンに行き、トップヘアピースを着けて退店した。

昔から前髪は長く伸ばして、あごの下くらいに毛先がくるようにしている。
ほとんどのウィッグは目の上までのぱっつんとした前髪か、横に流せるようになっていてもやはり耳に掛けられるかどうかくらいの長さしかないから、このヘアピースを見つけたときは感動した。
ちなみにフルウィッグも持っているが、冬だというのに暑くて被っていられなかった。
真夏にコスプレをする人を真剣に尊敬した。

休日は帽子やヘアピースが手放せなくなった私だったが、内勤の職場では帽子を被るわけにもいかず、ウィッグを被ったりするのも気が引けて、おまけに男ばかりの職場で誰に相談したものかと思っていた。
そうこうしているうちにも抜毛症は落ち着かず、気付けば後頭部がぽっかりとはげた。
もともと毛量が少ないのに、髪を抜いてしまうせいでさらに減り、鏡を見ればなんだか落ち武者一歩手前になっていた。
抜いた髪を眺めると、芥川龍之介の『羅生門』の老婆を思い出した。
あの老婆は鬘を作るために、自分ではなく死体から髪を引き抜いていたが。

何が原因なのかが分からない。
だいたいはストレスが原因だと言われているが、そのストレッサーが分からない。
仕事は別に嫌じゃないし、誰かに嫌がらせをされているわけでもない。

しかしいよいよどうしようもなくなってきて、チームリーダーに「ポイントウィッグをつけて仕事をしたい」と申し出た。
リーダーは快諾してくれた。
「病的な感じがするからどうしたのかなと思っていたけれど、容姿のことでもあるし、聞けなかった」とも言われた。
リーダーごめんなさい。

はげたままでいても、前述のヘアピースを着けて出勤しても、誰も何も言わなかった。
今どき容姿のことを何か言ったら、ルッキズムだとかセクハラだとか言われるからだろう。
ただ、女の子のスタッフが「え、何か雰囲気変わってる、髪染めましたか?」と小声で聞いてきたので、同じく小声で事情を簡単に説明したら「(ウィッグとは)気付かなかった」と驚いていた。

仕事終わりにこそこそとニット帽を被る必要がなくなった。
電車で乗り合わせる人が自分の頭を見てどう思うかを、気にしなくなった。
ついでにヘアピースで頭を覆っているので、髪を抜くこともなくなった。

語彙力ないけど、取り敢えずQOLが上がった。
すごい。

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