前祭と後祭
ニュースで「今年の祇園祭のお稚児さんが決まりました」という話題が流れると、お、と思う関西人である。
小学校高学年くらいの男の子が、メインの子とサポート役二人と、合わせて三人。
メインの子は、生き稚児として長刀鉾に搭乗し、山鉾巡行の先頭でしめ縄を切る大役を任される。
山鉾の中で、ご神体として生き稚児を載せるのは長刀鉾だけだ。
噂に聞いたところでは、大きな会社の社長さんのお宅のご子息であるとか、そんな感じのいわゆる『いいとこのお坊ちゃん』がお稚児さんに選ばれるらしい。
お稚児さんは神のお使いであるので、祇園祭のある期間のうちは地面に足をつけることが出来ず、その間は大人の男性(強力さんというそうだ)に担いでもらって移動をするとのことだ。
小学校高学年の男の子ともなればそれなりの重さもあるし、それにお稚児さんの家は人の手配や何だでものすごくお金がかかるというので、お金の話の真偽はともかくとしても、大変な話だなあと思う。
六月末日には夏越の祓と言って、水無月というういろうに小豆をのせた和菓子がそこかしこで売られ、京都人はそれを買い求めて一年の前半の厄を払う。
それが翌日、七月になると京都市内は祇園祭一色に染まり、そこらに提灯が吊るされ、お囃子が聞かれるようになり、中頃になって前祭の山鉾が建て始められるといよいよ京都の夏といった風情だ。
昨日が宵々々山、今日は宵々山、明日は宵山。
前祭の宵山はそれはそれは大変な人出で、四条通や烏丸通といった京都のメインストリートは歩行者天国になる。
私鉄の阪急電車は臨時ダイヤを組む。
テレビでは宵山の様子が中継される。
ところで、こちらはテレビではあまり取り上げられないが、祇園祭には後祭というものもある。
これは前祭の一週間後に行われるもので、同じく山鉾を建て、巡行もするのだが、前祭ほどの賑わいではなくもう少ししっとりとした雰囲気だ。
山鉾が道を塞ぐので近辺は通行止めになるが、四条通や烏丸通が通行止めになることはない。
私は毎年、後祭の山で粽をいただいて、玄関に飾っている。
黒主山では大友黒主が桜を見上げているし、鯉山の会所に飾られる大きな大きなタペストリーに描かれている鯉の群れは、毎年一匹ずつ増えているという噂だ。
森見登美彦氏の小説『宵山万華鏡』では前祭の宵山が取り上げられているが、後祭の宵山が取り上げられるものがあってもいいと思っている。
華やかさこそ前祭には劣るかもしれないが、風情という意味では私は後祭の方が好きかもしれない。