水から考える民主主義と資本主義の衝突 <前半>

〇はじめに

皆さん、こんにちは。2度目の投稿となりますPN青春野郎です。本日は僕が最近読んだ本である、岸本聡子さんの「水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと」の感想を述べつつ、資本主義と民主主義のそれぞれの論理が「水道」をめぐってどのように衝突しているのかを考えていきたいと思います。とても良い本だったので皆さんも是非手に取って読んでみてください。(リンクはこちら→https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1013-a/)

〇本書の書かれた経緯、大まかな内容の整理

2018年に日本で水道法が改正されました。この法改正によってそれまでは公営事業であった水道の管理を民営化することが可能になり、現在僕が住んでいる仙台でも水道の民営化が進みつつあります。さて、皆さんは「民営化」という言葉についてどのように考えていますか?「郵政民営化」「効率が良い」などのイメージを持たれているかもしれません。民営化とは、元々は税金から財源をとって公の仕事として行われていた事業(例えば水道、郵便、教育など)を民間企業に任せることです。1980年代以降、世界各地で様々な事業が「高効率化」の名のもと民営化されてきました。その中には水道事業もあります。しかし、人々の命に直結する水道事業を利潤追求が目的である企業に任せた結果は暗澹たるものであり、水道事業を買った企業は大儲けする一方で、高騰する水道料金、悪化する水質などに利用者が悩まされる事態が各地で多発しました。主に2010年以降ヨーロッパの住民たちは立ち上がり、一度民営化された水道事業を、より住民に寄り添った新しい形で公営化することに成功してきました。本書では、命に関わる水道を民営化することの問題点、再公営化を求める市民の闘いと新しい形の公営化、その先にあるより民主的かつ持続可能性に富んだ経済・社会の可能性などが書かれています。以下で細かく述べていきます。

〇水道民営化の問題点


1980年代以降、政府の歳出削減のために、「効率が良い」ともてはやされて様々な公共サービスが民営化されていきました。規制緩和によって、それまで市場では扱えなかったサービスを商品化し企業が参入していく資本主義のことを新自由主義と呼びます。イギリスではサッチャー政権以降この新自由主義政策の一環として、電気・石油・ガス・鉄道などが民営化され、1989年には水道事業も完全に民営化されました。本書の第4章ではイギリスにおける水道民営化が引き起こした様々な問題について詳細に記述されています。それは決してイギリスだけの特異な問題ではなく、水道民営化をしたと地域ならどこでも―水道法が改正されたこれからの日本においても―起こりうることです。イギリスでは様々なサービスが民営化され、公共部門を特定の企業に委ねてきました。しかし、サービスを委ねられた企業(PFI企業)は日本円にして28兆円もの多額の債務を抱えており、その返済は自治体の税金やサービスの利用料でしなければならないことが明らかになりました。2018年には、水道事業を引き受けたPFI企業も10社合計で7兆円以上の債務を抱えていました。
これらの債務はサービスの利用料や税金によって返済しなければなりません。「民営化ならお金がかからない」というのは全くの嘘でした。しかも、この借り入れは水道事業の運営に必要なものではなく、税金の支払いを少なくしたり、株主への多額な配当や経営陣への高額報酬を確保したり、漏水率の改善などのインフラ整備をサボタージュする口実とするために行われてきました。ロンドンの上下水道事業を引き受けたテムズ社は、資金不足を言い訳に今に至るまでEUの最低基準以下の下水処理しかしてきませんでしたが、足りないと言っている金額以上を株主への配当に費やしていました。公営事業体なら株主への配当は不要なので、同じ水道料金でも2000年代初頭にはEU基準を満たす現代的な下水インフラを整備できていたのです。また、民営化の際に英国政府が設置した水質、会計、利用者対応などの監視機関も、このようなテムズ社のずさんな経営を改善することはできませんでした。日本でも「水道民営化は地方自治体によるモニタリングが機能するから問題ない」と主張されていますが、国際コンサルタントや優秀な法務弁護士を駆使する水メジャーの狡猾な利権確保を、自治体が監視・規制できるというのは無責任かつ危険なことと言えるでしょう。民営化の結果イギリスでは、水道料金の支払いが困難な「水貧困」世帯が1割を超えています。これから水道民営化が行われる日本も他人事ではありません。「効率が良い」とされる民営化は様々な問題をひきおこしてきたのです。人の命に関わる水を、利潤追求を目的とする企業に委ねることは、利用者への甚大な被害の一方で暴利をむさぼる企業がある、という残酷な不公正を生み出してきました。

〇<後半>への結び


では、私たちはどのように水を管理すればよいのでしょうか?命に関わる水を利用者自身で管理する、そんな新しい形での公営化が欧州各地で巻き起こっています。後半では、欧州特にパリの再公営化に注目しながら、水をめぐる市民の闘いを見ていきます。また、再公営化の先にある、より公正で民主的な持続可能な経済―それは現在の資本主義のオルタナティブとなりうる―の可能性について私が考えていることを交えながら述べていくつもりです。後半も是非読んでください。



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