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#23 ヨーロッパ研修記 〜最終回 学びの本質は何だったのか?〜

 帰国をして早1ヶ月が過ぎた。

 もうすっかりヨーロッパモードは抜け、それは、なんだか遠い昔のような気もする。街の空気は凛と澄んで、新しい一年を迎える準備をしている。

 ヨーロッパにいる間、そして帰国後も研修の学びの整理をしていたが、結局このnoteも21つの研修記として書いていたようだ。各つくり手を訪ねた記録としても書いてきたし、「ワイルド」をテーマにした思考の変遷も数回にわたり、整理をしてきた。だから、本来であれば、わざわざ最終回なんて大袈裟なタイトルをつけて、改めてこんなブログを書く必要もないのだろうが、今回の1ヶ月半の研修での学びが、どうも芯を食ったように整理できていないような気がしていた。
 だから、年の瀬のこのタイミングで、改めて言語化をし、このヨーロッパ研修記を完結させたいと思う。



 こんなことを言ってしまうと身も蓋もないが、結局、日本にいたって「情報」は手に入る。

 わざわざ時間と金をかけてヨーロッパに行かなくたって、都内のビアバーやワインバーに行けば、国内外の様々なお酒が飲める。Instagramで気になるつくり手をフォローしておけば、どんなお酒がリリースされるのかも分かる。各お酒の講座だってあるし、今の時代Youtubeでそれが見れたりもする。それらの「情報」を手に入れることは、あまりにも簡単な時代だ。

 ただし、一言で「情報」と言っても、途轍もない濃淡のグラデーションがある。また、どの世界においても 「知っていること」と「理解していること」は全くの別物だったりする。まして今の時代、お酒はインターネットでも、どこでも買える時代。そのお店でしか買えないお酒なんて一部の限られたお酒くらいしかない。
 そんな時代においては、お酒という製品そのものだけではなく、その背景やストーリーといった目に見えないものに、とても大きな価値があるのではないか?それは僕自身が酒屋を始めようと決心した時にも書いていたことだった。

ひとつひとつのお酒のつくり手の想いや背景、歴史といったストーリーが伝わるような場所と機会をつくりたい。

 このお酒は、どういう人が、どんな土地で、どういう想いを持ってつくっているのだろう? ストーリーを知ると、お酒の味わいは、より美味しくなる。好きになる。
 お酒が手軽になった時代だからこそ、非効率を大切にする。自らつくり手を訪れ、つくり手と飲み手をつなぐ、伝え手として、ストーリーをもって、伝えていきたい。

 saloは新しい選択肢として、世界中、日本中のマイクロブルワリーや酒蔵、蒸留所のお酒と、その物語を伝えます。お酒を通じて、日常が豊かになるような場を目指していきます。

会社を辞めて、酒屋をはじめます。

 今回のヨーロッパ研修では、つくり手との対話を通じた哲学やストーリー、ヨーロッパのシーンの実態やリアルを目の当たりにしたこと。もっといえば、その土地の文化や地理、飲み手の雰囲気を含めて、感じられたこと。そう簡単には辿り着けないリアルを自分の目で見て、知りたくて、ヨーロッパを訪れた。

 例えばワイルドエールとナチュラルワインがクロスオーバーしているという雰囲気は、日本にいても実際に感じていたが、それがなぜそうなっているのか?
 そこには、つくり手の変化、飲み手の変化、さらにいえば気候の変化など様々な背景や理由がある。それはやはりヨーロッパの各地のつくり手を訪ねなければ、分からなかったこと。

 またつくり手を訪れる中で、インプットしていく知識や学びが、少しずつ線になっていく実感。あえて特定のカテゴリのお酒だけを学ぶのではなく、並行して様々なお酒をインプットすることで、カテゴリは異なれど、根本的な思想であったり、時に醸造のプロセスや考え方すらも共通していることが多々あった。

 具体的にはイタリア・トスカーナのナチュラルワインのつくり手であるPacinaの熟成の考え方と、ランビックのCantillonの熟成の考え方は部分的に、完全に一致する。(熟成は地下で行い、その熟成に必要な生態系を維持するために蜘蛛やその巣を除去したりしない。一見、不衛生に見えるかも知れないが、意図的なプロセス)。
 もっといえば、ランビックの熟成で使われるワインを熟成させたオーク樽を、Pacinaで見たときに、地続きのヨーロッパゆえのお酒のストーリーを感じて、感激したくらいだ。つまり、自分の目で見ていたものが、一つの点ではなく、線になっていくということ。

 振り返ってみれば、それぞれの知識レベルの学びは数えきれないほどあるが抽象化した時には、月並みな答えかもしれないが、"自分の目で見る" ということ。それがこのヨーロッパ研修における最大の学びだったと思う。

 まして、これから自分が酒屋という、「つくり手」と「飲み手」を繋ぐ「伝え手」としてチャレンジしようとした時に、つくり手の哲学や想い、その土地の景色が、お酒のスペック以上に、大事になると信じているから。
 自分の目でそれらを見て、知ることで、お酒がグッと美味しくなる。そして好きになるというのは自分自身の大きな原体験でもある。

 これだけお酒が手に入りやすい時代に、自分自身が酒屋をやる意味や価値は、「伝え手」としてのアーカイブでしかない。だからこそ、"自分の目で見る"ことを積み重ねていくこと。そこに大きな価値があると信じ、この研修記を終わりにしたいと思う。


 さて、2024年があと少しでやってきますが、どうやら肝心の物件が見つかるまでは、もう少し時間がかかりそうです。正直に言えば多少は慌てたくもなるのですが、焦ったところで僕ができることはそう多くはありません。

 変に慌てても仕方なし、こんな機会もそうあることではないと割り切り、せっかくであれば今しか出来ないことを積み上げていこうと思います。

 2024年は、いくつかの場所でポップアップ的に酒屋をやらせてもらいます。まさしくこのヨーロッパ研修で見てきたお酒とストーリーを伝える場を、仲間の力をお借りしてやらせてもらいます。

 そして、国内のつくり手の方々を訪ねさせていただきたいと考えています。とはいえ、まだほとんど白紙の状態で、まさしく今考えている最中ですが、変わらずカテゴリに捉われることなく幅広く、勉強させていただくべく計画を立てています。

 大きな変化が待っている2024年になるはず。だからこそ、来るべきに備えて、一つ一つ、地道にコツコツと。

 みなさま、よいお年をお迎えください。

salo Owner & Director
青山 弘幸
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