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プラスチック・ラブ

マイクロプラスチック問題によりストローはほとんどの店で撤去され、レジ袋は有料化が進んでいる。便利なものが安易に使えない世界になってしまった。環境問題や政治的意図に関して述べることはめんどくさい以外ないのだけれど、ストローに関しては少し悲しいなって。

むかし好きだったおんな。それはマクドナルドが本当に安くて学生の溜まり場になっていた頃のはなし。今ほどコーヒーが"映え"ない頃、私たちにとって恋人と会う場所はもう少し限られていた気がする。ファミレス、カラオケ、ラブホテル。あれ、そんなに変わらないのかな。まぁ恋人たちはいつだって愛の巣を探し求めて彷徨うよね。そんなふうに私たちはよく二階建てのマクドナルドにいたのだ。住んでいる地域はわりとラブホテルに恵まれているところだったのでいつでも行けるのだけれど。マクドナルドは前哨戦、あるいは後夜祭、そういう所だった。

白っぽいタイル張りの床、真っ白だけど薄汚れているプラスチック製のイス、真っ白だけどささくれだって地肌が見える木製の天板をつけた机。二階の角の席はそこだけ柱があるために奥まっていて、他の客からは見えづらく、左手にみえますのは道行く人々を見おろせるガラス張りになっております。とにかく、そこは私と恋人の巣のようで今でもその店舗の前を通るといやらしい気持ちになれる。時折、私たちはそこで愛撫し合った。

彼女はストローを噛むクセがあった。話しているときも話を聴いているときもくしゃくしゃと噛み、トイレへ行くときすら名残惜しそうにくしゃくしゃ噛んでから用を足しに行った。そうすると、私はいつも噛みしごかれてくたくたになったストローの先端数センチを眺めるのだった。縦に入った赤いストライプはすでに薄くなってしまい、ある種のマーキングと疑いたくなるようにわざとらしく艶やかな唾液が付着したプラスチックの棒はなんとも言いがたいカタルシスの偶像であった。

彼女は口淫が好きだった。セックスをおぼえたばかりの娘によくあることなのかもしれない。相手に快感を与えられるよろこびというものは快楽の一翼を担っていると思う。その小ぶりな口に陰茎をふくませこちらが不安になるほどの深みへ達することに罪悪感を覚えながらも、そこへ何度となく私の指を滑り込ませたものだった。唾液で光る私の指とさっき見ていたストロー。これからこのおんなへ至るはずの陰茎をおもう。ラブホテルはいつも湿り気を帯びたタバコの匂いがした。

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