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終わりを意識し、遠くをはかる

年輪経営という経営を実践している会社がある。長野県本社の伊那食品工業株式会社だ。

伊那食品工業(株)は、「かんてんぱぱ」という寒天を使ったお菓子作りの素や、スープ用寒天等の消費者向けの寒天製品から、企業向けの寒天を原料にした素材を製造するメーカーだ。

私が社会人大学に通っていた際に、ケーススタディで伊那食品工業の「年輪経営」を学び、それ以来、興味を持っている会社だった。実際に見に行って話を聞いてみたいとかねてから思っていた。同級生が企画をしてくれて、会社見学に伺った。

年輪経営とは、木の年輪を例えて表現した経営手法だ。
年輪は、たとえ雨が少ない年であっても、寒くても、暑くても、毎年必ず一つ増える。
樹木の年輪の幅というのは若い樹木ほど大きく、年数を経るほどに小さくなっていく。だからと言って成長していないのではなく、樹木全体の幅は年々大きくなっているので、成長の絶対量は大きくなっているという年輪の特徴と同じ考え方をしている。

近年、終身雇用を前提に採用し、配置転換しながら経験を積ませるメンバーシップ型ではなく、職務内容を明確にし、専門性を重視する考え方に注目が集まり、一つの会社に一生勤めるという考え方は徐々に変わり始めている。

そんな中、終身雇用前提で年功序列を貫きながらも、毎年、まさしく年輪のように、少しずつだが着実に増収増益で成長を遂げている企業が伊那食品工業だ。そして、社員が自ら毎朝早く出社し清掃をしている等、社員のエンゲージメントが高いという話も特徴的で、一体どういうからくりがあるのか?と興味を持っていた。

伊那食品工業の社是は「いい会社をつくりましょう」だ。
「いい会社とは、経営上の数字がいいだけではなく、会社を取り巻く総ての人が日常会話でいい会社といってくださる会社のこと」
創業者の塚越最高顧問は、経営の目的は、社員が幸せになること。利益は手段だと言っている。
会社は社員の幸せを目的に経営をし、社員は会社を信頼して、いい会社にしようと働いていて、地道に年輪のように、毎年少しずつ成長しているのだ。

今回社員の方からお話を聞いて、会社経営のからくりはもちろん参考になったが、自分の人生への気づきもあった。

「遠きをはかると軸がぶれない」ということ。
目先の利益ではなく、未来を見据えて考えれば、軸はぶれない。

こんなエピソードを伺った。
「遠きをはかる」という考え方由来の「急成長は敵」というキーワードに纏わるエピソードだ。

一時期の健康ブームで寒天が話題になり、店頭から寒天がなくなるという事態に陥った。販売店から増産を求められたが、社長は無理して増産をしようとは言わなかった。急成長は敵であるということがわかっていたからだ。
しかし、お客様の声を身近に耳にしていた社員が、2交代制での生産を提案があり実行。しばらくすると、社外から「御社の社員さん最近、顔色が悪いね」と言われた。社員に聞いたところ、実は無理をしていたということがわかり、会社経営の目的は「社員の幸せ」に立ち返り、2交代制を止めた。
他メーカーは増産をしていたが、寒天ブームも冷め、在庫を抱えることになってしまった会社もあったそうだ。

我々は、目先の利益を追い求めがちだ。でも伊那食品工業は違った。そもそもの目的が社員の幸せという軸があったからこそ、増産をしないという決断ができた。さらにこのブームもいつか終わるという未来(遠き)を落ち着いて見据えていたから軸をぶらさない判断ができた。

2つ目は、終わりを意識するということだ。
伊那食品工業では、入社時に100年カレンダーという、100年後まで書かれたカレンダーに自分の退職の日と命日に印をつけるそうだ。終わりを意識することで、「人生は意外に短い。そして、その短い時間で働く時間は多くを占める。どういう働き方をしたいか?」という問いを受け、考える。それは入社時だけではなく、定期的に振り返るというのだ。

恥ずかしながら、私はこれまで人生の終わりを意識して、逆算して「今これをやる」ということを正直考えたことがなかった。
終わりから逆算していないから、その時の感情や出来事、周囲の様子に影響され、ふわふわして、軸がぶれてしまうことがよくある。

今回の見学を機に、人生の終わりを意識しつつ、遠きをはかることは、自分の軸を持つことにも繋がるのだと感じた。

「終わりを意識しつつ、遠くをはかる」

まずは、自分の命日に印をつけて、残りを逆算することから始めてみようと思う。

人生100年時代と言われ、長いような気になってしまっていたが、いつか終わりを迎えることに変わりはない。限りある時間をどんな風に使いたいか、改めて考えるきっかけとなった。

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