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映画日誌’20-48:パリのどこかで、あなたと

trailer:

introduction:

『スパニッシュ・アパートメント』『おかえり、ブルゴーニュへ』などのセドリック・クラピッシュが監督と脚本を担当し、不器用に生きる2人の男女の成長と出会いを描いたラブストーリー。『おかえり、ブルゴーニュへ』で姉弟役を演じて2度目の共演となるアナ・ジラルドとフランソワ・シヴィルが主演を務め、『今宵、212号室で』などのカミーユ・コッタンや、『トランスポーター』シリーズなどのフランソワ・ベルレアンらが共演する。(2019年 フランス)

story:

パリの隣り合うアパートメントに暮らしているが、互いに面識のない30歳のメラニーとレミー。過去の恋愛を引きずるメラニーは、がんの免疫治療の研究者として多忙な日々を送りながら、マッチングアプリで出会った男性たちと一夜限りの関係を繰り返していた。一方、倉庫で働くレミーは、同僚が解雇されるなか自分だけが昇進することへの罪悪感を抱えている。それらのストレスから、メラニーは過眠症に、レミーは不眠症に苦しむ日々が続き、それぞれセラピーに通い始めるが...

review:

都会では、隣人の顔を知らないことなど当たり前だ。私の隣人はよく鍵を忘れてコンビニに行ってしまうらしく、たまに1階ロビーから救助要請がある。誰かが出入りするタイミングに合わせてオートロックを突破出来ても、鍵がないと自分が住んでいる階に辿り着けない仕様だからだ。毎回インターホンの画面越しに顔を見る。何なら毎回名乗ってくれる。なぜコンビニに行ったことが分かるかと言うと、手にセブンイレブンのコーヒーを持っているからだ。でも名前も顔も忘れてしまった。ああ、東京砂漠・・・。

都会の喧騒の中で、隣り合うアパートメントで暮らしながらも、お互いのことを知らない男女。同じ電車に乗り、同じ店で買い物をして、同じように孤独や不安を埋められないが、知り合うことはない。そんな2人が、自分を癒し、自分自身を受け入れ、誰かを愛せるようになるまでを描く。なかなかユニークなラブストーリーだ。何しろ主演の男女が全く出会わないのである。もどかしさに悶絶するが、マッチングアプリやSNSで誰とでも簡単に出会える時代において、「本当の愛に出会うために必要な過程」にフォーカスしているのだ。

近くにいながら、すれ違う2人の宇宙が無意識でつながる、いくつかの瞬間。虚しさを抱えて紆余曲折しながら、セラピーで自分の葛藤と向き合い、癒されていくさま。世界で最も美しい街・パリの下町に住まう人々の日常が、ひっきりなしに列車が行き交う線路沿いのアパートメント、中東系の店主が営む食料品店などを触媒にして、多層的に描かれる。美しくスタイリッシュな構図で、都会で生きる孤独や不安がていねいに紡がれており、いい作品だった。

私も少し前まで、都会の片隅で独身生活を営む孤独死予備軍だった。結婚願望が限りなく低めだったので全然困ってなかったけれど、過不足ない生活のはずが、時折、心にぽっかりと空いた穴に隙間風が吹く瞬間、何とも言い難い虚しさを感じる。そうと気付いたのは、遅い結婚をして穴が埋められたからだ。とは言え、結婚しない人生だった場合は、その虚しさごと飼い慣らして違う喜びを見出していただけなのだろうとも思う。それが別に妻や夫じゃなくてもいい。誰よりも自分を愛し、誰かと愛し愛される人生の幸福を、この映画は伝えている。

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