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映画日誌’22-14:ナイトメア・アリー

trailer:

introduction:

『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞の作品賞、監督賞など4部門に輝いたギレルモ・デル・トロ監督が、1946年に出版された名作ノワール小説「ナイトメア・アリー 悪夢小路」を原作に描くサスペンススリラー。『アメリカン・スナイパー』などで4度のアカデミー賞ノミネートを誇るブラッドリー・クーパーが主演し、2度のアカデミー賞受賞歴をもつケイト・ブランシェット、トニ・コレット、ウィレム・デフォー、ルーニー・マーラら、豪華な顔ぶれが共演する。第94回アカデミー賞では作品賞に加え撮影、美術、衣装デザインの計4部門にノミネートされた。(2021年 アメリカ)

story:

1939年。野心家の青年スタンは、人間か獣か正体不明な生き物を出し物にする怪しげなカーニバルの一座と巡り合い、マネージャーのクレムに声をかけられる。そこで読唇術の技を身につけた彼は、人を惹きつける才能と天性のカリスマ性を武器にトップの興行師へと昇り詰めていく。ショービジネスでの成功を夢見て独り立ちしたスタンだったが、ある日、精神科医を名乗る女性と出会ったことで運命が狂い始める。

review:

ギレルモ・デル・トロ監督との出会いは『パンズ・ラビリンス』で、奇妙な後味のダークファンタジーに衝撃を受けたものだ。その後も『パシフィック・リム』や『シェイプ・オブ・ウォーター』などでモンスター描写を得意としてきたデル・トロだが、本作の特徴は彼の長編作品では初めて「人間ではないもの」が出てこない、という点だろう。「異形のもの」は出てくるが、それが「人間」であることがこの物語の恐怖であり、最大の悪夢である。

ブラッドリー・クーパー演じる青年スタンは、冒頭で何者かの遺体を家ごと焼き払ってその場を立ち去り、流れ着いたカーニバルに合流する。スタンは読心術師のジーナとそのパートナーのピートに取り入り、やがて読心トリックを身につけると恋仲になった娘モリーを連れて一座を飛び出してしまう。野心家の彼はショービジネスの世界で成功を収めるが、ある心理学者との出会いによって運命が狂い始めていく、という物語だ。

寂れた町に煌々と灯るテントの明かり、怪しげな見世物小屋、フリークスたち。見世物はすべてインチキ、スタンの読心術や降霊術にもトリックがあり、そこに神秘性はないはずなのにどこか幻想的である。いつモンスターが出てきてもおかしくないデル・トロ監督らしい不穏なムードを漂わせながら、第二次大戦開戦前のアメリカを現世的に映し出しているフィルム・ノワールだ。ウィレム・デフォー演じる支配人が「ナイトメア・アリー(悪夢小路)」で仕入れてくる「獣人」のおぞましき正体に戦慄させられる。

ネタバレするので詳細は書かないが、今にして思えばスタンの運命を暗示するものは最初からいくつも散りばめられていた。我々は、彼が定められた運命に向かって、自ら破滅していく末路を眺めていただけなのだ。自らの能力を過信した男が陥る、絶望の深さ。あまりにも皮肉な、あまりにも残酷な自らの運命を受け入れた彼の、狂気に満ちた笑顔を忘れることができない。まさに悪夢としか言いようがない、デル・トロ劇場であった・・・。

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