映画日誌’21-14:サンドラの小さな家
trailer:
introduction:
アイルランド・ダブリンに暮らすシングルマザーが、周囲の人々と助け合いながら自分の手で家を建てようと奔走するヒューマンドラマ。舞台を中心に活躍する女優クレア・ダンが、親友が家を失ったことをきっかけに脚本を書き、『マンマ・ミーア!』『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』などのフィリダ・ロイド監督が映像化した。主演はクレア・ダン自身が務め、『つぐない』などのハリエット・ウォルター、ドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」などのコンリース・ヒルらが共演している。(2020年 アイルランド,イギリス)
story:
夫の暴力から逃れるため、2人の幼い娘と家を出たサンドラ。しかし公営住宅は長い順番待ちがあり、ホテルでの仮住まいから抜け出せずにいた。そんなある日、サンドラは娘との会話から小さな家を自分で建てることを思いつく。最初は土地や資金など足りないものだらけで途方に暮れていた彼女だったが、雇い主のペギーや偶然知り合った建設業者エイド、仕事仲間や友人たちの協力を得てマイホーム建設に取り掛かる。ところが執念深い元夫の妨害が始まり...
review:
アイルランド・ダブリンを舞台に、シングルマザーの貧困や家庭内暴力、不十分な公的支援の問題に鋭く切り込みながら、希望の光となりうる共助の力にスポットを当てる作品だ。本作で主演を務めている女優のクレア・ダンが、三人の子どもを抱えながらホームレスになってしまった親友の状況に怒りを覚え、脚本を書き上げたという。
シングルマザーの貧困は、我が国でも深刻な問題だ。と思ってググってみたら、日本は一人親貧困率ワースト1位とのこと。シングルマザーの就業率が世界一にもかかわらずだ。世界一働いているが世界一貧困率が高い人たちを生み出す、日本社会の構造的な問題に直面してしまった。女性の貧困問題については多少読んだり聞いたりしてきたが、自業自得としか言えないパターンはさておき、自己責任という言葉では到底片付けられない根深いものがある。
本作に登場するサンドラも、支配的な夫のDVとモラハラからやっとの思いで抜け出してきたけれど、社会に受け皿がなく行き場を失ってしまう。公営住宅には果てしない順番待ちがあり、制度を使い一時的に暮らすことになったホテルでも、ホテルマンからロビーやエレベーターを使うことを断られ自尊心を傷つけられる。夫の暴力によって負傷した左手の痛み、PTSDに悩まされる日々のなか、娘のエマから「聖ブリジット」の物語を聞いたサンドラは、自分の家を自分の手で建てることを閃くのだ。
格安で家を建築できる方法をネットで検索して手探りで動き出したサンドラに、雇い主のペギーが支援を申し出る。そのことをきっかけに1人で抱え込まなくていいのだと気付いた彼女が、周囲の人々を巻き込んでいく様子が描かれる。ホームセンターで偶然知り合った土木建設業者のエイド、彼のダウン症の息子フランシス、唯一のママ友ローザ、パブの同僚エイミーとその同居人たち。多様な出自と社会的背景を持つ人々が集まって無償で自分の時間を差し出し、力を合わせていく。
夫からの虐待で、社会から孤立していたサンドラがコミュニティを取り戻していく物語であり、みんなで建てた彼女の小さな家は、共助の力によって立て直される彼女自身「herself(原題)」のメタファーである。お互いに助け合うことで、誰もが「誰かに信頼されることの喜び」を取り戻す。アイルランドに昔から伝わる「メハル(みんなが集まって助け合うことで、自分自身も助けられる)」の精神だ。人生は耐え難く、世の中は世知辛い。でも、人と人のあいだに生まれる希望はある。サンドラを支える周囲の人々の人物描写がもう少しあれば作品に奥行きが出たような気がするし、手持ちカメラの映像に酔いそうだったけど、いい映画だった。
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