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ショートショート、瞬間の切り取りが多いです。 お花や空の写真を眺めるだけでも…楽しんでいただけますと幸いです。
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#写真

『叶わずとも』

蝉、ずっと鳴いてるね 時間は限りのあるもので 永遠などない事に 気づき始めた十四の夏 大人になろうとして 何もできない自分を これでもかと思い知る まだ 土の中にいてもいいんじゃない? 急ぎ沈む夕日が 焦らないでと足元を照らす 誰も信じたくないのに 君だけは信じたくて ぬるい風の中 二人で空を眺めていた #詩 #散文 #夕焼け #写真 #空 #夏 #青春

『迷子』

紫陽花残る7月中旬 町内掲示板の前を通る 「花火大会  一緒に行かない?」 突然の誘いに 嬉しさと恥ずかしさと 残念な気持ちで私は足下を見た 去年に続いて 部活仲間と見に行く予定を伝える おそるおそる顔を上げると わくわくした顔の君がいた 「じゃあはぐれたフリしよ!」 君の作戦はこうだ 部活の面子と一緒に合流するから 人混みに紛れて抜け出そうと 「焼きそば買って待っといて。  迎えに行くから。」 絶妙に格好の付かない台詞に 同時に吹き出しお腹を抱えて笑った

『やっぱり君の方がいい』

「好き。」 僕が言うよりも 君が口にした方が 素敵な言葉になる なんか こう 咲き掛けの薔薇の蕾のような 可愛らしさがね そんな言い訳を付けて 今日も僕は 君からの着信を待つ 眠る前にもう一度聞かせて 「好き。」 やっぱり君の方がいい #薔薇 #詩 #散文 #恋愛 #写真

『探しもの』

「有りそう?」 「今のところ無さげ。」 たったそれだけの会話で、 ごく自然に 君の隣を獲得できた。 白く繊細な花を 摘むこともなく、 二人の周りに 風は青く香るだけで。 四つ葉が無くても、 今、僕は幸せだ。 #詩 #散文 #シロツメクサ #クローバー #写真

『緑と』

「緑色にも、  結構種類があるよね。」 山道で今日もまた いつかの君の言葉を 思い出す 土の香り 雨粒の落ちる音 木々の隙間を見上げれば 首筋の汗を 風が優しく撫でていく 苔むした岩壁の シダの葉が さわさわと揺れて 続く斜面に 息が上がり もう一度空を仰ぐ 今、ここで 私は 生きている #写真 #詩 #散文 #自然 #草花 #散歩

『空』

明日は晴れかな。 これから雨みたいだけど。 昼は蒸し暑かったね。 夕方になったら、 涼しくて気持ちいい風になった。 白と青 深く 浅く 夕暮れと夜の 狭間の青空 あなたとわたし 別れた道の先で 同じ空を見上げていた #詩 #散文 #空 #写真

『君の色』

遠い春。 君のパーカーと同じ色の花を見つけた。 膝の辺りまである群青の裾と そこから伸びる紺色のジーパン。 濃い緑色のハイカットのスニーカー。 黒の靴紐。 灰色のアスファルトを蹴って、 穏やかに笑う。 今年の春も 僕は君を探して カメラを覗く。 #詩 #散文 #写真 #ネモフィラ #花

『休』

「こんな暑い日に  部活の外周なんて。」 坂の上までようやく辿り着き、 張り切りすぎな太陽に愚痴を溢す。 他の部活の掛け声が、 近付いてきた。 よれよれで膝に手を付く自分が、 君の目に止まらないように、 タオルを口にあてて、下を向く。 ふと、足元に佇む ビタミンカラーと目が合った。 軽やかな明るさに惹かれ、 思わず手を伸ばしたその一瞬。 駆け抜けていく君の 眩しい風が舞い込んでくる。 触れ損ねた大輪の花は、 一度大きく傾いた後に、 私の指先を優しく撫でてくれた。

『次の風まで』

ねぇ 綺麗な黄色だったよ 小さくて 可愛くて 素敵な香りだった もう少し  違う 本当はずっと 隣で並んでいたかったの 今度君と会う時には もっと広い空が見えるかもよ また会えるのかな 大丈夫 僕が必ず見つけてあげる 君の香りは 忘れないから #詩 #花 #写真 #散文

『君と揺られて』

風が吹くと 君の香りが近くなるね 君の隣は お日様が気持ちいいね 重なったところが くすぐったいね 一緒にいると あったかいね #詩 #花 #写真 #散文

『コントラスト』

抜けるように青い空。 「おはよー。」 クリーム色の歩道橋から、 君が手を振る。 「おはよう。」 右手を上げ返事をし、 橋の下をくぐる。 足取り軽く降りてくる音を抜かして、 一足先に下で待つ。 真っさらなワイシャツと 君の笑顔。 キラキラ眩しくて、 切なかった。 #詩 #散文 #空 #写真

『無力な涙』

雨はちゃんと土に染みて 静かに川となり 海に辿り着いて いつかは空に還るのだろう 私の涙はただ頬を 伝ってシャツに にじむだけ 拭ってくれた君の手の ぬくもりはもう 思い出せない きっとあの日の雨と一緒に 空に還っていったのだろう #詩 #写真 #空 #雨 #散文

『歩み』

「昔からこの花好きなんだけど、 ちっちゃいから上手く撮れなくて。」 一生懸命にシャッターを切る君 この先も春が来るたびに そんな君の優しい背中を 僕は立ち止まって待っているよ #詩 #散文 #創作 #花 #写真

『揺れる色』

三限あとの休み時間 誰かが窓を開けている 大きく膨らむ 日に焼けたカーテン 「黄緑色が柔らかそう」 頬杖の君は寝ぼけ眼で 陽の当たる柵の向こうを見つめる 座席の間を吹き抜ける薫風 捲れた英語のノートを抑えて 君の眺めた色を追う #詩 #散文 #新緑 #空 #写真