絶叫する男

こんにちは。さくやと言います。
私は音楽大学卒業後、演奏活動をしながら小学校や大学などの教育期間で働いてきました。
印象深い出来事や怖い思いをしたことなど、
書き留めていこうと思います。

今回はとある大学で勤務していた頃のお話になります。

その大学というのは、都内にある大学で、割とアクセスの良い場所にありました。
歴史はあるけれどもこじんまりとした少人数制の雰囲気で、学生たちもとても穏やかでした。

私が退職する頃にはコロナ禍も経て学園の経営状況は悪化、就労環境も学生の状況も大変になってしまうのですが、私が働き始めてすぐの頃は、まだ小規模大学ながらもその学校らしい、それなりの活気が感じられていました。そんな頃のお話です。


私は4階のある一室で、入試に関わる仕事を担当していました。
仕事の大体の流れを把握してきた頃、とあることに気がついたのです。

・外から絶叫する男の声が聞こえることがある
・14:00〜15:00の時間帯が多く、曜日でいうと木曜日か金曜日である。毎週というわけでもない
・男は何か言葉を発しているようであるが、聞き取れない。が、語気や声の雰囲気からしてポジティブな大声ではない

というような現象がありました。
規則的な現象、決まった時間・曜日に聞こえてくるということもあり、
また芝居や歌の授業がある学校でしたので、
そういう授業のときの学生や先生の声なのかな、と思いました。
しかしどちらの授業も違うキャンパスで行われているようでした。
残る可能性としては、ゴミ回収や窓拭き清掃などの業者が大きな声を掛け合って作業をしているというものですが、これらも曜日や時間帯が全く違っていたため、当てはまらないということになりました。

だとしたら、外を歩いている外部の見知らぬ人の声ということになります。
4階の、室内にいても「大きい声だなぁ」と感じるほどの絶叫ですから、なにごとか気になります。

ある日その声が聞こえてきた際に、私は、同じ部屋にいた先輩方に、「あの大きな声は何ですか?」と聞いてみました。

すると
「知らない」
「聞こえない」と、皆から素っ気ない返事ばかりが返ってきました。
おそらく相当な大声です。聞こえないはずがないのですが、まるでそれ以上の追求は許さないくらいの冷たさでした。
シャッターを下ろされるというか、この話には2度と触れられないくらいの空気感です。

私は少し怖くなり始めていました。
何故なら、私は既にその大学でその他にも色々と不可思議な現象に遭遇していて、(それらの現象についても、後々タネがわかってくるのですが)もしやこの絶叫男も怪異(?)の類なのでは?と思ったからです。

「知らない」という反応はともかく、
「聞こえない」という反応が本当で、あの誰にでも聞こえていそうな大声が自分にしか聞こえていないのだとしたら…

それ以来しばらくは週末にあの絶叫が聞こえてくると、何だか落ち着かない気持ちになりました。

しかし、しばらくしてその心配は覆りました。
私はその絶叫男をしっかりと目撃したのです。
その経緯は、下記の通りとなります。

ある日昼食に入れるタイミングをことごとく逃して、14:30頃にようやくランチタイムとなった日のことでした。
(昼食は各々で入るシステムでしたので、1人で昼食をとっていました)

そんなに日に限ってお弁当などを持ってきていなかったので、近くのコンビニへ入ったときです。

遭遇しました。
聞き間違えるはずなどない、あの声です。
あの絶叫男が、コンビニの中にいました。
同じ店内にいますから、その声の大きさというか迫力は凄まじいです。
いつも耳にしていた声のトーンで、何かを言っています。
距離感が近くなったところで、何を言っているかは分かりませんが、とりあえず怒りの感情だけは伝わってきます。

恐る恐るながらですが、
この機会にとどんな人物か見てみました。

普通の中年男性が一名、大きな独り言として怒鳴っている感じで、隣にいる誰かに対してひどい罵声を浴びせているとかではないようでした。
中肉中背で、意外と髪は黒いようです。
ポロシャツにスラックスをインしているといった普通のおじさんの出立ちで、失礼ながら意外にも身なりは普通というか、そこまで不潔な感じや陰湿な感じはしませんでした。

その場は流石に怖くて、大急ぎでおにぎりとお茶を買って、急ぐようにしてコンビニを出たわけですが、
まぁとりあえず絶叫男は怪異でも、心霊現象でも何でもなく、独り言の大きいおじさんということが判明したのでした。


めでたしめでたし。


さて、しばらく時間が経った頃の話です。
仕事は少しずつ覚えていき、
絶叫男のことは忘れていた頃でした。

とある金曜日、
定時ちょうど、綺麗に仕事が片付いた日だったと思います。
まだ薄っすらと空が明るいうちに帰れるとなって、私は上機嫌で公園を突っ切って帰ろうとしていました。

公園へ行くには学校の裏門側を通ります。
裏門は唯一、自家用車が行き来できる場所です。
そのキャンパスは都心で駐車スペースに限りがあるため、学園本部の役員や理事長クラス、あるいはその親族のみが自家用車での出入りが許されていました。

その時はちょうど車が一台出るところだったようで
何やらピシッとした雰囲気で、スーツの男性が数名頭を下げていました。

その先には、秘書らしい男性2名ほどを伴って大きな黒い車に乗る中年男性がいました。

身なりは違いましたが、見間違えはしません。


車に乗り込んだのは、
以前、コンビニで見たあの絶叫男でした。


4階の部屋であの声が聞こえたとき
「知らない」
「聞こえない」と先輩方にシラを通されたのは
そういうことだったのか、と今となっては合点がいく話ではあります。


(終)


(このお話は、事実を元にしたフィクションです。実在する団体、地名などは変更して執筆しています。)


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