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V棋戦中継時の心がけ

V竜王戦、V名人戦の運営に参加し、その他にも何かとV棋戦の中継や聞き手に関わることが多い私だが、毎回心がけようとしていることがあるので書いておこうと思う。

大きく分けると以下の2点になる
①リアルタイムの状況、対局者の心理を解説する
②将棋がわからない人にも現在の状況がわかるように説明する

ここからさらに色々細かくなると思うが、順番に説明していく。


残り時間などを絡ませて解説する

私は中継時によく対局者の持ち時間について触れる。これは持ち時間の乖離が少なからず対局者間の心のゆとりに影響を与えていると思うからだ。

例えば10分30秒の将棋において、40手目の時点で先手が残り7分、後手がすでに秒読みに突入しているのであれば、序盤で先手の作戦が成功していると見れる。
たとえそれが実は定跡型だったとしても、後手はそれを知らず、自力で定跡に何とかたどり着いた証拠になる。
こういった状況はあとから棋譜を見ただけでは「なんだ序盤は定跡通りか」となるだけで、当時の後手の苦悩はわからない。
だからこそリアルタイムで対局を解説しているときはそこを注目していきたいと思っている。


極端な消費時間に注目する

例えば20手目まで1手5秒以内に指していた人が、作戦負けに気づいて2分の長考をして1手を指したとする。
これもあとから棋譜を見ただけではわからないかもしれないが、リアルタイムで見ているとその人がどれだけ反省していたのかが伝わってくる。

そういった場合に「なかなか指さないですねー」で終わるのではなく、今対局者はどこを反省し、どこで挽回しようと考えているのかを解説できる人はすごいと思うし、そうなりたいと思っている。


対局者の迷い、ブラフに注目する

81dojoでは対局者が掴んでいる駒が見える。
そのため色々な駒を掴んでは離し、掴んでは離しを繰り返している場合は対局者の読みに迷いがあることがうかがえる。
当然これは棋譜に残らないので、リアルタイムで観戦している者だけが知れる特権だと思っている。

またあるいはこれを逆手に取ってくる対局者もいる。
例えば右側の駒を何度も触り動かすそぶりを見せ、いざ動かすのは左側という視線誘導を使う棋士だ。
これも長く中継をやっているとただ迷っているだけの人と、技術的にやっている人の区別がなんとなくついてくる。
それを解説できればカッコいいんじゃないかと思っている。


現在の状況を別のものに例える

これは将棋について詳しくない人に向けての意味合いが強いが、より局面を
理解しやすくする意図がある。
よく私の例えで出てくるのは野球や競馬だ。

・1点差の9回裏 ワンアウト ランナー2塁
これは先手がわずかにリードしているが、後手にもまだ追いつくチャンスがあり、まだまだ分からない状況

・3点差の9回裏 ツーアウト 満塁
これは先手がかなりリードしているものの、流れとしては後手が握っており、後手の攻めを受けきれるかどうかの状況

・2009年の日本文理みたいな将棋
圧倒的劣勢から終盤に大きく差を詰めるも、わずかに届かず負けた将棋

・ブロードアピールの根岸Sみたいな将棋
終盤に全部持っていった将棋

みたいな感じだ。
余計にわからなくなったと思う場合は申し訳ない。


ダジャレを入れる

これは場を和ませる意味や、解説不能すぎる局面でのお茶濁しとしてよく使う。
「札幌稚内」など私の中継を代表するフレーズがいくつかある。

その他お互いに戦力を投入し、絶対に譲れない地点を「ガダルカナル」、広すぎて玉が捕まらない状況を「太平洋」などと呼称するのも私の特徴だと思っている。


いかがだっただろうか?

局面における最善手の解説は後からでもできる。
中継を行う際にはそういった解説よりも「イマ」を解説できるようにしたいと思っているので、私が中継を行っているときはそのあたりも注目してみてもらえると幸いである。



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