短編小説「プラトニック断髪」


コウさん。本名は知らない。

ネットで知り合った50代ぐらいの男の人。

コウさんはいつも私を絶妙なダサさに仕上げてくれる人だ。


コウさんと初めて出会った時、私の髪は胸までのロングだった。

だけど数時間後には、鎖骨あたりでプッツリと切り揃えられしまっていた。たっぷりあったロングヘアが、肩にかかるぐらいの長さになってしまったことはショックなのにとても興奮した。

横一直線に切り揃えられた髪は膨らみやすかった。結んでいても毛先の感じが野暮ったくて、そこが良かった。



次にコウさんと会った時は、斜めに流していた前髪を、眉が見える位置で、顔に沿って弧を描くようにまぁるく切られてしまった。30女の顔に幼い前髪はミスマッチで、また悶えてしまった。



その次の時は、コウさんは顔剃りを施してくれた。顔中にシェービングクリームを塗り、丁寧にカミソリを動かして、顔中のうぶ毛を剃ってくれた。顔のいたるところがジョリジョリいって、毛深いといわれてるみたいで恥ずかしかった。

仕上がりを鏡で見た時は驚愕した。普通にあった眉は、眉頭だけをわずかに残して、全て剃られていた。前回短く切られた前髪はまだ眉に届かぬ長さだ。メイクをしても、剃り過ぎた眉はバレバレだろう。それをさらしながら生きていかねばならなくなってしまった。

そして眉だけでなく、もみあげも耳の上ラインで真っ直ぐに剃られ、そこから下は綺麗になくなっていた。もみあげなんて普段は意識してなかったけど、なくなったら違和感があった。

髪をまとめたり耳にかけたりしたらすごく恥ずかしいことになる。

眉やもみあげが伸びるのにどれぐらいかかるのだろう・・・そんなことを考えたら嬉しいような悲しいような気持ちで、心臓がドキドキした。



いっそのこと、バッサリといってほしいと思うこともあるけど、ジワジワ焦らすコウさんのやり方は、その時限りではない心地良さがずっと続くので、私はコウさんと会うことをやめることができない。


次は一体どんな髪型になるのだろう。

そう考えただけで、私の体はムズムズしてくるのだった。




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