私の理想の1日
私は今、母の実家である祖母の家に住んでいる。
昔の古い家だけど、私はこの家が大好きだ。
ここにくるとすうっと息が深くなり、とても落ち着く。
空気も美味しいし、夜は空を見上げれば星も見える。
その代わり町中にある実家では見たこともないような、大きな蜘蛛やムカデやゲジゲジやその他のよくわからない虫たちが同居人。
それだけが少しつらい。
早起きは苦手だったけど、植物の世話を始めてから自然と朝早く起きられるようになった。
朝起きて身支度を済ませたら、まずは腹ごしらえ。
ホームベーカリーを予約しておいたから、朝一番に焼きあがる。
漂うパンのいい香り。
朝から焼きたてが食べられるなんて、なんて贅沢だろうと思いながら、まだ温かいパンにナイフを入れる。
そのままでももちろん美味しいのだけど、先日作ったいちごジャムをたっぷりつけてぱくり。
市販のいちごジャムって変な味がしてぬるぬるしてて全く好きじゃなかったのだけど、自分で手作りしたいちごのジャムは風味が豊かで、作りものでない、本物のいちごの味。本当に美味しい。
ぜいたく。
ひと段落ついたら、次は庭の花々の水やり。
祖母の家には広いお庭もあるので、私は四季折々の花を植えていく。
祖母がいなくなってしまってから、庭で育てていた花たちもすべて枯れ、代わりに雑草が生え放題の荒れ放題だった。
手入れをしないと、草花は育たないんだ…。ボーボーの草たちを見ながら私は途方に暮れたのを覚えている。
園芸大好きな祖母の庭には、いつも色とりどりの花が咲いていた。
私はそんな祖母の庭を復活させたくて、まずは雑草を必死で駆除し、育てやすそうな植物から少しずつ増やしていった。
経験不足で、たまに枯らしてしまうけど。
おばあちゃん、こんな広い庭よく維持できてたなぁ…と腰を痛めながらつくづく思う。
そしてお庭が持てたら絶対に植えたいと思っていた花がある。
それはバラだ。
私の実家では園芸好きな母がお庭にたくさんのバラを育てている。
5月ごろのうちの庭はバラで埋め尽くされ、本当に見事なバラの庭園になる。
私もそんなバラの庭にひそかに憧れていたのだ。
母は園芸初心者には難しすぎる花だと言っていたけど、どうやら初心者でも育てやすい品種があるらしいと聞いて、何種類か植えてみた。
初心者向けとはいえ何もしないでいいわけではないから、毎日きちんと様子を見るようにしている。
さて、花がちゃんと咲くだろうか。
家の裏には畑もあるので、ゆくゆくはここで野菜も育てたい。
今は夏の間にできる、いちじくを食べるのが私の楽しみ。(これも早く採らなければ、カラスに奪われてしまう。日々戦いなのだ)
祖母の家はとても広い。一人で住むには大きすぎるほど。
そこで、一部を改装してお店をやることにした。
私の長年の夢、白魔女喫茶だ。喫茶といっても内容はスープカフェ。
(名前で勘違いされた方がコーヒーは？軽食ないの？ナポリタンとか、オムライスとか…と言われるのだけど…ここはこだわりたい)
この店のウリは何と言ってもパンと薬膳スープ。
パンも作りたかったけど、お庭の手入れを考えるととても時間が足りないので、今はパン屋さんと提携して卸してもらっている。(いずれはパンも手作りしたいけれど)
お店の掃除をしたら、スープの仕込みにかかる。
今日は良いキャベツが入ったから、小エビと煮込んで優しい味のスープにしよう。
春のキャベツは柔らかくて甘い。ざくざくと切ったら、お鍋の中へ。
エビからもいいお出汁が出るから、味付けはお塩でシンプルに。
そのままコトコト。
ある時祖母のカレンダーに、毎日隙間なく野菜や料理の名前が書き込まれているのを見たことがあった。
「おばあちゃん、これはなに？」と私が聞くと、祖母は「これはご近所さんにもらったものと、おばあちゃんがあげたものだよ」と言った。
こんなに毎日…！？カレンダーは本当に毎日埋まっていたのだ。
私はびっくりしたが、それだけご近所付き合いが濃密だったのだろう。
お店を開いてからも、一番来てくれるのはご近所さんだ。
「まさか、孫のなぎちゃんがお店を開くなんてねぇ」
「私は白ご飯と煮魚が食べたいわ」
ご年配の相手はコールセンターのお仕事でだいぶ慣れたと思っていたが、時々パワーに圧倒されて苦笑する。
なんだかんだ言って、今日もにこにこして帰ってくれてよかった。
お店はお昼の間だけなので、片付けを済ませると午後はゆっくり過ごせる。
ペコペコになったお腹をお店の余り物や賄いで済ませたら、お庭の手入れの続きをしたり、気分が乗ればそれからお菓子を焼いたりして過ごす。
でも大概は疲れてダラダラと配信を見たり、ボーっとして過ごしてしまう。
ここは祖母の家に住む前とあまり変わらない。
たまに午後から占いの依頼が入るときもある。
そういう時は焼き菓子を用意して、お客さまにリラックスしていただけるようにお茶の用意をする。(大体ハーブを使ったお菓子やハーブティー、コーディアル)
今日はいちごジャムついでに作ったいちごシロップで、いちごミルクの用意もしておこう。嫌いじゃないといいけど。
できるだけ万全の用意をして迎えたい。
占いで悩みの解決が一番だけど、やっぱりここに来て良かったと思って帰ってもらいたいから。
美味しいものって、人を幸せにすると私は信じている。
あー、疲れたな。もうお夕飯なんでもいいや…。
冷蔵庫にあるもので適当にパパっと作った炒め物、ご飯、お味噌汁。
それを食べたらまたしばらくゆっくりして、お風呂に入る。
祖母の家のお風呂は本当に昔ながらのステンレスの湯船。(そして底がすごく深い)
壁はタイルとコンクリで、冬はめちゃくちゃ寒い。
ここもいずれはリフォームしないと、将来きついなぁ。
そんなことを考えながら、湯船に入浴剤を落とす。
明日も早いので、必然的に夜は早寝。
前は夜中まで起きている生活だったけど、続けると早寝早起きって本当に気持ちがいい。
今日も楽しい一日だったな…そんなことを考えながら、気付いたら夢の中。
それでは、また明日。おやすみなさい。
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