見出し画像

坊主になりたい私がバリカンを買う

子どもの頃、男の子がとても羨ましかった。
その辺で立ちションが出来るし(昭和)スカート履かなくてもいいし、木に登っても怒られないし、なんと言っても髪型!あのシャリシャリとした手触り、シャンプーの楽さ、お風呂から出たらもう乾いてて寝癖もない。
とことん面倒臭がりの私は坊主に憧れていた。

ただ、これは少しイカン、とも思っていた。
男の子と仲良くしていると母はいい顔をしなかったし、小学校の時とはいえ、男子と喧嘩して泣かしてしまったし、遊びはほぼ男の子がするような事だったし、その頃腰まで長かった髪の毛にも関わらずやんちゃすぎるかも、と。

それで進学先を女子校に選んだ(親に誘導された感)
うっかり進路の関係で大学も女子大になってしまったため、9年間の女子校生活。私は、目指していた大人しい素敵な女子ではなく、すっかりオバサンの心を持つ、なんならオジサンの心を持つお淑やかとは程遠い大人になってしまった。

その頃、髪は長かったり肩まであったりしたが、とにかく不器用でアレンジも出来ず、寝癖も放ったらかしだったので、よく休み時間になったら友達が道具を持って寝癖を治したり色んな髪型にしてくれていた。ありがたい。
円形脱毛症になった時も特に気にせず学校に行ったら「ちょっと!あかんて!」と即呼ばれてヘアピン等で一生懸命隠してくれたり。制服がシワだらけとか、ネクタイがひん曲がってるとか、そういやいつも色んな人に心配されていた。

大学では、メイクが下手で服装もあんまりな私を大学で出来た友達が捕まえてフルメイクをほどこし、素敵な服を貸してくれて皆で撮影会というなんかよくわからないイベントも経験した。

とにかく、不器用だったのだ。
色んな本を読んだり、美容院やデパコスのカウンターで教えて貰ったりしたけどさっぱりできなかった。バイト代の半分は化粧品で消えたというのに。

大人になって、結婚式に呼ばれたり、正式な場所では自分なりに時間をかけてフルメイクをして、流石に髪はやってもらおうかなと馴染みの美容院に行ったら「メイクも……やり直そうか」とクレンジングされてやり直しされることも多々あった、いやいつも。
そんな時友人は「いつもこうしたらいいのに!」と褒めてくれるが、再現不可なのである。

なので結婚出産した時は、手入れも楽だろうとショートにした。頼み込んで切れるだけ切ってください、と。
だけどショートはショートで寝癖に悩まされ、すぐ伸びるのでまた美容院に行かねばならない。
こち亀で見たように、頭から足先まで石鹸ひとつで済ませたい……面倒臭がりな私はこの頃から再び坊主への憧れを募らせていた。

病気になり、長期入院中、その思いは更に膨れ上がり、退院して家でお風呂に入りたくてもなんだかわからないが入れない状態に陥った時、もう我慢ならんと思った。

「坊主にしたいんだけど、どうかな」
夫に相談すると、神妙な顔で私のその想いが一時の衝動性でないか長い間確認して
「……じゃあ俺も剃るよ、眉毛も剃るんだよね?」
と返されてびっくりした。
夫と私の「坊主」にはかなり隔たりがあったようだ。
眉毛は剃らないし、なんならツルツルに剃るんじゃない、髪の毛が洗えなくて困ってて、なんなら髪の存在自体がストレスなので坊主にしたいだけなんだと訴えると
「それはスポーツ刈りじゃないかな……」
と言われた。スポーツ刈り程長くはない。
ツルツルとスポーツ刈りの間はなんて言うんだろう、やっぱり坊主じゃないのだろうか。

子ども達にも意見を聞いた。
中学生、青春まっしぐらの子ども達が、病院以外ほぼ外に出れないとはいえ母が坊主になるのは構わないかと
長男はちょっと笑って
「まぁいいんじゃない?」と言い
次男は慌てて
「ちょっとどんな感じを目指してるのか参考の写真を見せて」
と確認してきた。次男も剃髪すると思ったようだ。
「これくらいなら……いいかもしれない」
大変不安そうだったので、帽子をかぶるよと伝えたら安心していた。

衝動性ではないかと主治医にも一応確認をしたら
「出家でもするの?尼さんかい?」
と返されたので説明をしたらまぁ反対派されなかったので、ウキウキとAmazonでバリカンを買った。最近のバリカンは色んなアタッチメントが付いていて長くも短くも出来る優れものらしい。しかもここ最近の事情でおうちカットというものが流行り、しばらく値上がりしていたようだ。

YouTubeで使っている人の動画を見て、準備は出来た。
まだ楽天で頼んだ布製の頭に優しい帽子はまだ来ていないが、坊主のデメリットも確認し、準備万端だったので決行することにした。
次の日、歯医者の予約が入ってたな……とちょっと思いながら、まぁいいか、と。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?