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お葬儀の仕事

 私は数年前まで葬儀の仕事をしていた。
新卒で入社をして結婚するまで6年働いた。

「若いのになぜそんな仕事を選ぶのか」


 選考を受けている間も入社が決まってからも
働いている間も何度そのようなことを言われたかわからない。

 確かに葬儀業界で働きたいと思ったことは一度もなかったし、なんなら葬儀に参列したこともほとんどなかった。葬儀は人が亡くなったらしなければならない行事という程度の認識だった。

 そんな私が葬儀社への入社したいと思ったのは就活中に叔母が急死したことが大きかった。
おもってもない人がおもってもない時に亡くなり、家族は悲しむ間もなく、よく分からない葬儀の準備をしなければならなかった。

 若かった叔母の死には多くの人が集まった。バタバタとお通夜をし、気づいたらもう葬儀の日で長いお経の後に叔母の棺に花を入れた。
この後、棺の蓋が閉まったら出棺して火葬場に行ったら叔母は燃やされてしまう。もう逢えない。そう思った時、ふと従兄弟の顔を見た。
叔母のひとり娘である従姉妹は棺からすこし離れたところでぼうっとしているようにみえた。
その様子をみて葬儀担当者が従姉妹に声をかけ、棺へ近づくよう促した。叔母の顔に手を触れた従姉妹は「冷たい」と言ってはじめて涙を流した。

 葬儀が終わり少し落ち着いた頃、従姉妹は叔母のお供えの器を洗いながら「葬儀が終わるまでなんだかまだひょっこり帰ってくるような気がしてたんだ。」と話した。あの時、叔母の身体の冷たさが悲しみから逃げる気持ちをぶっ壊したんだと思った。

 実際に働いてみてからは従姉妹のようなケースはよくあることだった。最愛の人を失った時、人は現実を受け入れられなかったり、パニックになり周囲に攻撃的になったりする。この「死」を理解した段階でしっかり向き合う時間をつくるのが葬儀担当者の仕事だ。

 たった6年間の間だったが、普通では味わえない貴重な経験をたくさんした。検死を終えた故人様をお迎えに行ったらすっぽんぽんだったとか、忘れ物を届けに喪家へ行く途中に葬儀社であるという理由でガラの悪い男性に絡まれて雨に打たれながら怒鳴られたこととか…。
20代前半の女子にはなかなかヘビーな体験だった。
 それでも6年続けたのは、お客様に涙を流しながら「ありがとう」と言われる快感を知ってしまったからだと思う。遣り甲斐という言葉だと綺麗すぎるかもしれない。20件とか30件とかに1件くらいだったが、そういう葬儀ができた時にひどくゾクゾクした。

 仕事を辞めた理由は結婚して家のことと仕事を両立できなかったのと、体力的にずっとこのままは無理だと思ったからだ。あとは単純に疲れ切っていた。体よりも心が。
 辞めたことに後悔はない。あの仕事をあのまま続けていたら家庭はギスギスしていたであろうし、我が子にも逢えなかったと思う。だけれど今でも時々、自分なりにいい仕事ができて喜んでもらえた時のあのゾクゾク感を思い出してしまう。時々、だ。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
もっとnoteの機能を使いこなしたいと思いながらまだあまり使えずにいます。
もっといろんな方の記事を読んで勉強ですね!

うさぎ


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