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【vol.15〈前編〉】ちくわぶ料理研究家・丸山晶代さん 「目ざすは、ちくわぶの良さを生かした加工食品の開発」

「ちくわぶを全国区にしたい」──。その一心で、2011年から「ちくわぶ料理研究家」として邁進する丸山晶代さん。仲間と始めたイベント「ちくわぶナイト」の開催を皮切りに、ちくわぶキャラ「ちくわぶーちゃん」の作成、10月10日を「ちくわぶの日」に制定、ちくわぶソングの制作、「マツコの知らない世界」への出演、書籍「ちくわぶの世界」の出版、「ちくわぶの聖地」赤羽での「赤羽わぶまつり」開催…とちくわぶを盛り上げるために日々奮闘中。〈前編〉ではあふれ出るちくわぶ愛を存分に語っていただいた。


── 「ちくわぶ料理研究家」として活動されるようになったきっかけを教えてください。

 王子(東京都北区)で猫グッズ販売店を経営していたころ、その近所にある友人の古書カフェによく遊びにいっていたんです。そこでは全国の梅酒を飲み比べする「梅酒ナイト」や、昭和のきいちのぬり絵をぬりながらひたすら飲む「ぬり絵ナイト」など、いろいろなイベントを企画して開催していたのですが、そのなかの一つが「ちくわぶナイト」(2011年9月28日、第1回開催)というものだったんです。

 そもそもなぜ、「ちくわぶ」をイベントのテーマにすることになったのかというと… みんなで雑談中におでんの話になったんですね。「やっぱりおでんといえばちくわぶだよね!」と私が言うと、「でもちくわぶっておでん以外では食べないよね?」とみんなが…。それで、「えっ!!??」って。私の母は、おでん以外の煮物などにもよくちくわぶを入れてくれていたので、私にとってはとても馴染み深い、当たり前にある食材だったんです。

「ちくわぶでいろいろな料理ができるのにどうしてしないんだろう…」「東京近郊以外では知名度が低いんだよね」と話しているうちに、「じゃあ私が今日から『ちくわぶ料理研究家』になってやってみるわ!」と(笑)。そして第1回目の「ちくわぶナイト」を開催することになりました。

 当日は、ちくわぶのコースメニュー「ちくわぶかりんと&ちくわぶチップス」「
ちくわぶの味噌漬けバターソテー」「超煮込みおでん(1時間&3日間煮たもの)」
「ちくわぶのから揚げ」「ちくわぶフォー」
のほか、「焼きちくわぶ」「ちくわぶのおつまみアーリオオーリオ」「ちくわぶクッキー」の単品メニューを提供しました。

 イベントはかなり盛り上がって、お客さんがおもしろがってSNSに上げると、「え、ちくわぶでから揚げ!?」などと一気に拡散されて話題になったんです。それをきっかけに遠方の方からの問い合わせや、メディアの取材に取り上げられるようになりました(「ちくわぶナイト」は2021年までに49回開催)。

──その後、10月10日を「ちくわぶの日」に制定、赤羽(東京都北区)を「ちくわぶの聖地」に、さらに書籍『ちくわぶの世界』(2019年)を赤羽の出版社「ころから」さんから刊行されました。

 赤羽には「川口屋」さんという1932年創業の老舗ちくわぶメーカーさん、おでんの名店「丸健水産」さん、ちくわぶ料理も提供している「ソーシャルコミュニティめぐりや」さんがあります。そうしたご縁で赤羽をちくわぶの聖地としようと発案しました。そこから赤羽の出版社「ころから」さんとご縁ができて、書籍『ちくわぶの世界』の出版につながったのです。

 また今年から、毎月第2日曜日に「赤羽わぶまつり」というイベントをめぐりやさんで開催しています。私が考案したちくわぶ料理を少しでも多くの方に味わっていただきたいと思って、赤羽を拠点とした恒例イベントとして続けていくつもりです。定番の歩きながらでも食べられる「赤羽ちくわぶドック」プラス1品、そのほかに季節ごとのちくわぶメニューを販売しています。

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『ちくわぶの世界』1650円(税込)
レシピ、グラビア、メーカー取材、自作ちくわぶ、歴史…ちくわぶを120%網羅。表紙イラスト・帯、装丁の丁寧なこだわりに著者の愛が感じられる1冊



──『ちくわぶの世界』の共著者であり、撮影を担当されているのは渡邉博海さん(「有頂天」の元ギタリストのハッカイ)なんですね。また、同書で対談された小野瀬雅生さん(クレイジーケンバンドのギタリスト)や、ラジオ対談された高見沢俊彦さん(THE ALFEE)など、ちくわぶを愛するミュージシャンが多いことにも驚きました。

 高見沢さんのラジオ番組に呼んでいただいたのは本を出版する約2年前(2017年)でした。高見沢さんもちくわぶが本当にお好きということで、30分の放送時間がすべてちくわぶの話に(笑)。子ども時代からちくわぶをよく召し上がっていて、東京近郊以外で食べられていないことをご存じなかったそうです。ツアーで地方のおでん屋さんを訪ねた際、ちくわぶが入ってなくて大将と喧嘩しそうになったこともあったとか(笑)。「ちくわぶが全国に広がればいいのに」という思いが通じ合った収録でした。

 このご縁で、高見沢さんには『ちくわぶの世界』の帯を書いていただけることになったんです。高見沢さんは幅広い年代に人気ですし、何より「あの高見沢さんがちくわぶ好き!?」という意外性が、ちくわぶを盛り上げてくれると確信しました。

 渡邉博海さんとは、私が経営していた猫グッズ店に足を運んでいただいたのをきっかけに連絡を取らせていただくように。以来、私のちくわぶの活動にも興味をもってくださって、「本にしたら?」と提案してくださったのも博海さんなんです。ころからさんでの出版が決まったと同時にご報告し、本書のプロデューサー兼カメラマンとして制作に関わってくださいました。

 小野瀬さんはブログに「ちくわぶ」の項目があるほどのちくわぶ好きなんです。私の友人でもあるおでん研究家の新井由己さんとラジオで共演して、その後新井さんの貸切で開催された「ちくわぶナイト」に参加してくださいました。


──すごい人脈ですね。くまくら珠美さんの表紙も目を引きますが、くまくらさんにお願いすることになった経緯は?

 もともと猫関連の知り合いに「にゃんこ堂」(神保町)という猫専門の書店さんがいて、「ちくわぶの本の出版が決まったのだけど、ちくわぶの本は置いてくれないかしら?」と聞いたら、「表紙が猫だったらいいよ」と(笑)。ではなんとしても表紙を猫にしなくては!!と意気込むなか、かねてより「にゃんこ堂」さんと親交のある猫絵作家のくまくら珠美さんへの依頼をご提案いただいたんです。大人気の作家さんで、とても私から頼めるような方ではなかったのですが、「にゃんこ堂」さんのお陰で依頼が実現。偶然にもくまくらさんもちくわぶ好きということで、ご快諾いただけました。

 高見沢さんに帯のコメントを依頼するときも、編集さんからは「通ったらすごいけど、さすがに無理でしょ」と言われていたんです。でも「お願いするだけはタダだからダメもとでいってみます! ダメだったらまた考えましょう」と(笑)。そしたらお二人とも二つ返事でご快諾くださって。表紙のイラストは本当に素敵で、私が運営するネットショップ「元祖ねこ商まるやま商店」のオリジナルのトートバックとして販売もしています。



──表紙や帯のアイデアに依頼、カメラマンさんの手配、企画の立案までトータルで関わられたのですね。編集さんの理解もあってのことと思いますが、丸山さんの熱意が素晴らしいです。

 これがちくわぶ本の集大成と思っていましたので(笑)。どう考えても、ちくわぶの本が出るのはこれが最初で最後だろうということで、120%とことんこだわった本にしようという話になっていたんです。

 実際、ちくわぶに関して詳しい人は皆無に等しくて、メーカーさんに取材してもわからないことがたくさんあったんです。国会図書館で文献を探してもほとんどなく…。なので、ちくわぶの原料である小麦粉のルーツや小麦粉の種類、それぞれの精製方法の取材までしてしまいました。

 実際に取材させていただくと、おもしろいお話や新たな発見が次々にあって、それを載せなくては自分の思いが100%入らず、一生後悔すると思って、もともとの発売日だった10月10日(ちくわぶの日)に入稿が間に合わなくなってしまったという裏話も…(笑)



──ちくわぶへの妥協ない思いがひしひしと伝わってくる本だと思います。ちくわぶ料理研究家として活動されて約10年。ちくわぶの知名度が上がってきたなと手応えを感じた瞬間は?

 いろいろなメディアに取り上げていただきましたが、『ちくわぶの世界』を出版する半年ほど前に出演させていただいた「マツコの知らない世界」の影響は、本当に大きかったです。全国放送で高視聴率番組なので、本当に大反響で、ちくわぶがあまり売られていない地域の方にもちくわぶを知っていただけました。

 ツイッターのフォロワーも一気に増えましたし、私のクックパッドを見て実際につくってくださった方、つくった報告や感想、お手紙をくださる方も増えるなど、これまでになかった反応が本当にうれしくて。放送時期が5月下旬だったので、時季的に販売していない地域も多く、どうしたら買えるのか?という問い合わせもありました(笑)

 テレビ離れと言われていますけど、やはりテレビ出演の瞬発力というのはすごいですね。一瞬にして拡散されますし、影響力の大きさを実感しました。

 実はこの「マツコの知らない世界」の出演は、2年越しで実現したものだったんですけどね――。

(ちくわぶ料理研究家としていくつかのテレビ番組に出演されている丸山さん。後編では、念願だった「マツコの知らない世界」への出演と、丸山さんのもう一つの活動である保護猫活動、猫グッズ販売「元祖ねこ商まるやま商店」のお話をうかがっていきます)

\コラム・ちくわぶが東京近郊でしか流通しなかったワケ/

 東京近郊の人にとっては、おでんの中に入っていて当たり前のちくわぶ。コンビニおでんランキングでは必ず10位には入る存在だ。1〜2位は全国一律で大根、卵。その後に昆布、こんにゃくなどが続いて、関東ではちくわぶがだいたい6〜8位くらいの印象という。「存在は知っているけど取り立てて…という感じで、今までとにかくスポットライトを浴びてこなかったちくわぶ。ですから、たとえアンチでも取り上げてもらえることがうれしい」と丸山さん。ちくわぶが北海道から沖縄までに出回るようになったのはここ10年くらいで、おもに大手スーパーや百貨店などでおでんの時期に限った9〜2月に販売している。
「今のように真空パックで売られる前は、八百屋さんやお豆腐屋さんで水の張ったバットにそのままチャポンと入っていました。夏場だと確実に1週間持たないですよね。そういう状態で売られていたのが始まりなので、東京近郊以外には流通しなかったのだと思います」


【PROFILE】

丸山晶代 (まるやま あきよ) 1969年東京都足立区生まれ。子どものころから親しんできたちくわぶが全国区でないことを知り一念発起。2011年よりちくわぶ料理研究家として活動を開始する。2019年「マツコの知らない世界」出演、書籍「ちくわぶの世界」出版。北区赤羽を「ちくわぶの聖地」として、毎月第2日曜日にソーシャルコミュニティめぐりや(北区赤羽2–4−14)で「赤羽わぶまつり」を開催。500を超えるオリジナルちくわぶ料理レシピはSNSでもたびたび話題に。猫グッズをネット販売する「元祖ねこ商まるやま商店」の経営者でもあり、売り上げの1割を猫の幸せのために寄付する活動も行っている。

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