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植物の精【紫陽花の季節、君はいない】

2023年12月28日。どんよりとした曇り空。俺が勤める植物公園は、今日が仕事納めである。

「夏越くん、お疲れ様!」
設備の点検を終え、事務所に戻ってきた俺に園長が話しかけてきた。

「お疲れ様です、園長」

園長とは、初対面の時に正体を知らずに話しかけられたこともあり、人間が苦手な俺でも身構えることなく接することが出来る。

「今年は、ドラマの影響で例年より忙しかったわね」
植物学者が主人公のドラマだったので、この植物公園でも関連のイベントを催したのだった。

「たくさんの人が来園してくださって良かったです」
昔は来園者相手にしどろもどろだった俺も、植物を通してなら案内出来るだけ成長していた。

「特に夏越くんの手書きの展示物、あれ良かったわ。あなた、文字が綺麗なんだもの。もっと仕事に生かすべきだわ」
園長が興奮して褒めるので、俺は気恥ずかしくなった。

助け舟のように終業ベルが鳴った。

「あら、もうこんな時間。夏越くん、良い年をお迎えください」

「園長も、良いお年を!」

俺はどこにも寄らずにアパートに帰宅した。

今年の仕事は、植物を知るのに良い機会だった。

「博士は自分を『植物の精』と言ってきたけど……まさかな」

俺には紫陽花の精霊だった恋人に想いをはせた。人間に生まれ変わった彼女は、精霊の時の記憶が残っているのだろうか。

「それでも、俺は紫陽しようを探し出してみせる」

何度年を越そうとも──

【完】

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