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夢見るそれいゆ 173

「ナゴシが『紫陽との未来』を語る度に、紫陽は胸が締め付けられる思いだった。
紫陽はギリギリまで精霊として死ぬことを秘密にしておきたかった。
きっと彼に知られてしまったら、悲しまれてしまうから──」
ゆかりちゃんは、少しの間沈黙した。
もしかしたら、電話の向こうで泣くのを堪えているのかもしれない。

「──ゴメン、ヒナちゃん。
紫陽の最期を思い出してしまって、辛くなっちゃった。」
「『最期』?」
「うん。ナゴシが私を看取って泣いている顔。」
紫陽は、死に逝く自分の苦しみより夏越クンが悲しんでいる方が辛かったのか。

「空に昇る時、私ナゴシに言ったの。
『ナゴシ、また会おうね──』って。ナゴシには聞こえてなかったと思うけど。
私は出来るだけ早く生まれ変わって、ナゴシに笑ってほしかった。でも…。」
「生まれ変わったら、外国暮らしだったんだね。」
「うん。」
ゆかりちゃんのお父さんは、ゆかりちゃんが生まれてからすぐに、妻子を連れ日本を発ってしまった。
そのことが、二人の再会を阻んでしまったのだ。

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