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紫陽花の季節、君はいない 12

「何で俺が送り届けなければならないんだ?」
八幡宮の精霊たちは平気だけど、俺は知らない人間に対しては人見知りをしてしまう。

「夏越、私は人の姿はしているが精霊であるぞ。こういうことは、同じ人間であるお前の役目であろう!」
涼見姐さんの言うことは、もっともである。

「う~!」
俺に持ち上げられた國吉は、不快になってきたのか身をよじり始めた。
このままだと、落としてしまう。

「ね…姐さん、どうしよう。」
焦った俺は姐さんに助けを求めた。
「夏越、抱っこ位まともに出来ぬのか。」
姐さんは俺から國吉を受け取ると、國吉を優しく抱っこした。
すると、國吉はキャッキャと声をあげて笑いだした。

「姐さん、抱っこ上手いね。」
「まぁ、年の功だな。」
姐さんの本体のケヤキは、樹齢三百年である。

俺は姐さんに抱っこの仕方を教わり、しぶしぶ社務所に向かった。
「ご…御免ください。」
俺は、社務所の引き戸をそっと開けた。
何だかふんわり良い匂いがした。

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