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夢見るそれいゆ 37

「紅葉、ちょっと落ち着いて下さい。」
御葉様がクレハを窘めた。
「いけない、取り乱してしまったわ。」
ゼーハーとクレハは肩で息をしていた。

「先程、邪気を境内側に引き込む為に紫陽花の森の結界を弱めたので、結界を張り直します。二人とも息を調えて下さい。」
御葉様が鈴を構えた。
私とクレハは、深く息を吸って吐いた。

シャン!
御葉様が鈴を鳴らすと、地面から光が溢れ返り、紫陽花が激しく揺れた。
光が収まった後、空気感が変わった。

「御葉様、ご迷惑おかけしました。」
私は御葉様に謝罪した。
「ひなた殿、邪気は誰しも憑くもの。気に病まないで下さいね。」
御葉様は、優しく微笑んだ。

「ニャー。」
私の足元に真っ白な猫がすり寄ってきた。
「この猫は朔。この子は桜の精霊です。幼少の國吉殿の影響でこのような姿になりました。國吉殿の家猫として存在しています。」
私はしゃがんで朔を撫でた。柔らかな姿態はどう見ても、猫そのものだ。

「紫陽がいなくなった後に生まれたのよね。」
クレハが寂しそうに微笑んだ。
クレハは私の友達である前に、紫陽の友達なのだ。

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