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紫陽花の季節、君はいない 28

しばらくすると、明るさに目が慣れてきた。
俺は鳥居の外にいたはずなのに、八幡宮内の随神門に立っていた。

「何か変だ。」
この明るさはまるで昼間ではないか。
それに、此処から見える拝殿の側の桜は花が咲いている。

俺の後ろから、セーラー服を着た女の子が一人で歩いて来た。
「夏越クン──。」
知らない女の子から俺の名前が出てきて、俺はドキッとした。
しかし、彼女は俺を見ていない。
俺と同じ名前の知り合いなのかもしれない。

女の子は拝殿へと歩みを進めた。
どうにも彼女のことが気になって、俺は参拝する体で後をつけた。

彼女はニ礼ニ拍手して願いを呟いた。
「神様、どうか夏越クンと紫陽を再び会わせてください。お願いします。」
彼女の顔は真剣そのものだった。
彼女が願いを言い終えて一礼をした瞬間、拝殿の奥の鏡が強い光を放った。

気付くと、俺は御涼所のケヤキの根元にもたれ掛かって座っていた。

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