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1分しまうま

その女性は路上パフォーマンスをしていた。
バケツいっぱいの墨と、身長と同じ大きさの筆、そして1畳分の和紙。
彼女は画家だった。
独り室内で描くのが何よりも苦手で、通行人が足を止めて反応してくれるのを見るのが、何よりもモチベーションになっていた。

幽玄の世界などの伝統的な水墨画をはじめ、外来の動物、無機質なビル群、肖像画まで何でも描けた。

ある日、通行人からリクエストがあった。
動物を1分で描いて欲しいというものだった。
それを動画サイトにアップしたいという。

画家は考えた。
元々が白黒の生き物ならば1分でいけると。

白黒の生き物といえばパンダだ。
しかし、パフォーマンスとしてはもっと込み入った方が緊張感があって良いだろう。

彼女はバケツに大筆を突っ込んだ。
大きな紙に小さな体躯で文字通り全身全霊で描いたのは、しまうまだった。

画家は本当に1分で描ききってしまったので、動画は「1分しまうま」と呼ばれた。


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