見出し画像

紫陽花の季節、君はいない 58

俺はアパートの自分の部屋に帰った。
「…た、ただいま。」
何か違和感を感じると思ったら、俺はあまり「ただいま」を言ったことがない。

「おう、お帰り。」
「お帰りなさい、夏越くん。」
柊司とあおいさんが玄関まで出迎えてくれた。

キッチンのテーブルには、美味しそうな料理がズラリと並んでいた。
「お前んち材料少ないから、ウチの方から食材持ってきて作ったぞ。」
何故かふんぞり返る柊司。
確かに俺の家の冷蔵庫は、最低限の野菜ぐらいしか入っていない。

「あおいさん、コンビニに向かう途中でケーキ屋を見つけたからそこで買ってきたよ。
あおいさんの誕生日だから、あおいさん好きなの選んで。」
俺はケーキの入った箱を開けて、あおいさんに中が見えるようにした。

「夏越くん、ありがとう。私はこれにするわ。」
あおいさんが指差したのは、彼女のイメージにぴったりの苺が乗った真っ白なショートケーキだった。

読んで下さり、ありがとうございます。いただいたサポートは、絵を描く画材に使わせていただきます。