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紫陽花の季節 、君はいない 3

俺は1年近く前、「彼女」を失って憔悴しきっていた。
「彼女」と俺の関係は他人には言えなかった。
「彼女」は人間ではなかったからだ。

アパートの隣人である柊司は、大学時代から料理音痴な俺に夕飯を作ってくれていたのだが、夕飯すら食べなくなった俺をとても心配していた。
でも、当時の俺は周りが見えてなかった。

ろくに食事を摂らない日が続き、とうとう俺はアパートの自分の部屋で倒れてしまった。

仕事から帰った柊司が発見した時は、俺はPCのデスクに突っ伏していたらしい。
大学院のオンライン授業を受けようとして、スタンバイしたところで意識を失ったようだった。

目を覚ますと、そこは病院だった。
腕には栄養剤を流し込む為の点滴が繋がっていた。

その時、病室にはあおいさんが付き添っていた。
(柊司はちょうど食事をしに席をはずしていたと、後で聞いた。)

いつもどこかふわふわして頼りないあおいさんだけど、この時は本気で怒られた。

「私も柊司くんも、本気で心配したんだから!」
涙を流しているあおいさんを見て、俺は周りの優しさにようやく気付くことが出来た。

「ごめん、あおい…さん。」
栄養失調でろれつが回らなかった口で謝った。
「意識が戻って…本当に良かった。」
あおいさんは、俺の点滴に繋がれていない方の手をぎゅっと握り締めた。

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