hollyhock ─birthday─ 前編

「夢見るそれいゆ」主人公ひなたの母親、あおいさんのお話です。
ひなたがまだお腹にいる頃の時代です。


2021年7月24日。私は夫の柊司くんの車の運転で久しぶりに遠出しているの。
妊娠してから最低限しかお出掛けしなかったから、とても楽しいわ。

「あおい、今度の誕生日は外食にしようか。」
という柊司くんの提案で、柊司くんのお姉さんの旦那さんのレストランを貸し切りにしてもらったの。

それにしても、柊司くんの車の運転する姿は格好いいわ。
彼は普段バス通勤だから、滅多に見られないのよね。

「あおい、車酔いはしてないか?」
柊司くんは運転しながら、ときどき私を気遣ってくれる。
「大丈夫よ。」
と言いながら、私は柊司くん自身に酔ってる。

家から1時間、目的のレストランに着いた。
森のなかにあって空気が美味しい。
「こんにちは~。」
ドアを開けると、ドアチャイムが鳴った。
「柊ちゃん、あおいさん、いらっしゃいませ。」
柊司くんの一番上のお姉さん【詩季さん】が、赤ちゃんを抱っこしながら出迎えてくれたわ。
詩季さんは普段違う仕事をしているけど、育休中なんだって。

「詩季ねえ、久しぶり。」
「柊ちゃんがパパになるって、不思議ね。」
「俺からしたら、詩季ねえが母親なのが不思議だよ。」
詩季さんの前では、柊司くんが少し幼く見える。

「二人とも、どうぞ席に座って。」
シェフである旦那さんに促され、私達は窓側の席に座った。

妊婦である私に気遣って、食前酒の代わりに梨のジュースが出てきた。
「地元の果樹園で採れた梨で作ったのよ。」
飲んでみると、梨の爽やかな甘さが口の中に広がった。

「うちは地元で採れたものを使ってお客様にお出ししているんだよ。海は遠いけど、水や肉、野菜がとても美味しいんだ。」
シェフが誇らしげに言った。

「元々都内で働いてたけど、ここの食材に魅せられて移住してきたの。
子どもにも新鮮なものを食べさせてあげられるしね。」
食材に気を配る詩季さん、柊司くんに似ているわ。

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