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株式会社のおと【毎週ショートショートnote】

ここは、株式会社のおとが運営する香水ショップ「えふ・のおと」である。

自分だけの香りが作れることで人気があった。

時々、店名から文具店や楽器店と間違って入店してしまう人もいた。

「何で香水店なのに『のおと』なんですか?」
初めての客に、店員が必ず聞かれる質問である。

「香調のことをノートって言うんですよ。香料の揮発速度で香りに変化が生まれるのを、社長が面白がって社名を『のおと』にしたのです。」
店員は淀みなく答えられる。

ある日、疲れ果てた中年男性が店に訪れた。
只ならぬ様子に調香師が話し掛けた。

「仕事が辛くて文具屋で遺書を書く紙を買いに来たが、店を間違えた」
帰ろうとする男性に、調香師は「ちょっとお時間いただけませんか」と呼び止めた。

「これ…あなたが前向きになれる香りを組み合せました。使い切るまで死なないで下さい。」
お代は要らないと、男性に香水瓶を手渡した。

後日、「転職しました!」と男性は笑顔で言いに来た。

久しぶりに、企画に参加しました。

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