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紫陽花の季節、君はいない 14
國吉の母親は、両腕で包み込むように息子を受け取った。
子どもの重さから解放された俺の腕はだるくなっていた。
「親ってすごいな。こんなに重いのに、ずっと抱っこしてるんだから。」
俺は心の内で呟いたつもりだった。
「ふふ、そうね。私も親になるまで、こんなに重いものをずっと抱えられるとは思わなかった。」
反応が返ってきたので、俺は思いを声に出していたことに気付いて焦った。
俺は、此処を立ち去るタイミングを失った。
「ねぇ、甘酒飲んでいって。國吉を連れてきてくれた御礼。
今日は國吉の従妹が初節句だから、甘酒を温めていたの。」
母親はいそいそと、社務所の奥に入っていった。
そうか、この匂いは甘酒だったのか。
女きょうだいのいない俺は、今日が雛祭りということに関心すら持っていなかった。
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