holly ─winter solstice─ 後編

焼き上がったカボチャのケーキを夏越に味見してもらったら、「美味い。」と一言。
誕生日プレゼントとして、カヴァをもらった。
明日あおいと飲もうと思う。

元々夏越はやせ形だが、ここ半年でかなりやつれた。
何かがあったのは明らかなのだが、アイツは何も言おうとしない。
今みたいに食欲がある時は、ほっとする。

──誕生日当日。
カレーが出来上がる頃、あおいが仕事から帰ってきた。
「おかえり~。」
「ただいま。」
ハグしたいところだが、このご時世なので部屋着に着替えるまで我慢する。

盛り付けが終わりパーティーを始めようとした時、
「柊司くん、話があるの。」
と思い詰めたような顔であおいが言った。
「話って、何だ?」
あおいはしばらく黙っていたが、ようやく口を開いた。
「あの…ね。私、お腹に赤ちゃんいるの。」
「え?マジで!?」
おめでたい話なのに、あおいはうつむいたままだ。

「あおい、もしかして嬉しくないのか?」
「私、怖いの。親に愛されたことがない私が、子どもを育てられるのかしら。」
お腹を押さえたあおいの手は震えていた。

あおいの両親は彼女が物心つくまえに別れていて、親権を持った母親は仕事を理由に彼女を放っておいた。
そのことが、彼女の中でトラウマになっているのだ。

「あおい、一人じゃないから。
俺がいるから大丈夫だから。一緒に育てよう!」
「柊司くん…。」
「俺、この子に会いたいよ。あおいは会いたくないの?」
あおいは顔を上げた。
「会いたい…会いたいよ。私、この子を産むわ!」
彼女の目に強さが宿った。

「では、子どものことも祝して乾杯~。」
柚子サイダーの入ったコップで乾杯した。
カヴァは子どもが生まれてからのお楽しみにする。

今年が一生の中で一番忘れられない誕生日になるに違いないな。


【完】

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