紫陽花の季節、君はいない 34
涼しい風が咲き誇る紫陽花の森からさわさわと吹いてきた。
いないはずの彼女も「心配していたんだよ。」と言っている気がした。
そういえば、闇から目を覚ます前に見たあの光景は何だったのだろう。
あれも「妄言」だと言われてしまうだろうか。
言おうかどうか迷っていると、
「夏越殿、何か言いたげですね。」
と御葉様に言われてしまった。
「実は…目を覚ます前に、八幡宮の拝殿で俺と紫陽の再会を願っている女の子を見たんです。
でも、俺はその女の子のことに会ったことが無いんです。
そもそも俺と彼女のことを知っているのは、貴女達精霊だけですし。
ただの夢だろうと言われればそれまでなんですが…気になって。」
俺がおずおずと尋ねると、御葉様の鈴が自ずと鳴った。
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