紫陽花の季節、君はいない 53
「俺は情けなさに耐えきれずに、夏至の日の早朝にふらふらと家を出たんだ。
そこで知り合いに会って、話を聞いてもらったんだ。
『お前は目の前にいる人間を見ていない。不安と罪悪感から遠ざけようとしてるだけだ。』ってかなり厳しい口調で言われたんだ。」
「…夏越にしては、かなり辛辣な知り合いだな。」
柊司がドン引きしている。実はその知り合いは精霊なんだって言ったら、俺はおかしくなってしまったと思われるに違いない。
「辛辣だけど、思い遣りのあるひとだよ。
言われた時はショックだったけど、本当のことだったし。」
「…そうか。」
「言われたお陰で、お前らときちんと向き合おうと思ったし、就活もだんだん手応えを感じるようになってきた。」
俺は自分の胸に手を当てた。いつも一緒にいてくれる人間でも、真剣な気持ちを伝えるのは緊張する。
『大丈夫だよ。』
心の中の紫陽が、俺を励まし続けている。
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