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ある家の物語 1〜8

むかしGREEに書いていた物語をnoteに載せます。(8話まで書いてありました)
犬になってしまった「主さま」(飼い主)と、人間になってしまった猫「ユキ」の日常です。


1


「主さま~、今日の晩御飯は何がいいですか?」
わたしは、広告の裏紙と鉛筆を手にした。

「そうだね~、久しぶりにネギトロが食べたいな」
と、主さまはパソコンと呼ばれるものの画像を開いた。

この不思議な光る板は、ネギトロというものを映しだした。

わたしがはじめて見るものは、主さまがこうやって説明してくれるのだ。

「こうなってしまってから、まだ一度も食べてないからね」
と、主さまはつぶやいた。
「『ね、ぎ、と、ろ』…っと!」
わたしは、覚えたてのひらがなで、メモをした。

まさか文字を書けるようになるなんて、前は思いもしなかったな。

2

近所のスーパーに、ネギトロの材料を買いに行った。

マグロと万能ねぎをかごに入れた。

「あら~!先生のところの姪御さんじゃない」
近所に住むおばさんだ。

先生とは、主さまのことだ。
私は、「先生の姪御」ということにしてある。

「今日は、ネギトロなのね。
 最近先生を見ないけれど、元気?」

「はい、元気です。」

「先生のところ、犬か猫飼ってたよね。
 ネギって、人には害がないけど犬猫には毒だから気を付けてね」

私は、真っ青になった。
私は結局ネギトロの材料を買わず、スーパーを飛び出した。

3


「主さまのバカ!」
家に着くなり、私は主さまに怒鳴りつけた。

主さまは、昼寝していたのかうつぶせのまま、寝ぼけた声で、
「キミ、せめて靴を脱ぎなさい…」
と眠たげな視線を足下に向けた。

「ごめんなさい…」
靴を履くようになったのは、ごく最近なので、油断すると脱ぎ忘れてしまう。

靴を脱いで、改めて主さまに質した。

「主さま、犬猫にはネギはダメって知っていて、食べようとしたのですか?」

そう、私は元・猫。

そして「主さま」は、実は元人間の黒犬なのだ。

4


「何事も体験してみないと分からないからね」
と、主さまはひょうひょうとしている。

「見た目が犬だからといって、中身が犬とは限らないからね」

まあ、そうなんだけど。

私だって、見た目は人間だけど未だに猫と会話できるしね。

「でも、ネギトロはダメッです!」

5

結局、今晩はお刺身になった。

私が怒って部屋に引きこもってしまったので、主さまが電話で配達を頼んだのだ。

「ねぇ~、出てきてよ。お刺身だよ?好きでしょ?
早く食べないと傷んじゃうよ~」

主さまは、ずるい…。

私は、刺身の誘惑に負けた。

6

「『きょうは ぬしさまと おさしみお』…あ、違った『おさしみを たべました』っと!」

眠る前に、主さまからもらった絵日記に今日の出来事を書いた。

ひらがなは覚えたけど、文章を書くのは難しい。

でも、絵を描くのは文字と違って「見たまま」を描けるから楽しい。

主さまは「文字も元々は絵から出来ているんだよ」と言っていたけど…本当かな?

「そろそろ寝るか」

電気を消して、布団の中で丸くなった。

暗くて狭いところは落ち着くなぁ。

7

私は主さまに大晦日に拾われた猫だ。

神社の石の大鳥居の辺りをおなかを空かせてふらふらしてた。

何だかヒトが多くて、怖かった。

そんな時、主さまが見つけてくれたんだ。

ゆく年に出会ったから、私の名前は「ユキ」になった。

私が人間になった時に主さまが、
「君がいたのが大鳥居が神社の敷地外で良かったよ。喪中だったからね」
と言っていた。

喪中ってなんだろう?

8


「ユキ、桜が咲いたから、散歩に行こう!」

主さまがパソコンを閉じて、しっぽをブンブン振り回した。

「何で、桜が咲いたから散歩なんですか?」

私は、主さまと明るいうちに散歩に行くのは苦手だ。

「人間には、桜が咲いたら花見をしないといられない習性があるのだよ。」

主さまがドヤ顔(?)で言うので、しぶしぶ行く人にした。

何で、主さまとの散歩が苦手かって?

それは…

「さぁ!出掛けるよ」

主さまがリードをくわえて、しっぽを振っている。

これでは、立場が反対にしか見えないからだ。


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