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紫陽花の季節、君はいない 11

「そういえば、紅葉(くれは)は、どうしてる?」
俺は紫陽のもう一人の仲の良かった精霊の姿を探した。
「紅葉はお前に厳しく当たった手前、気まずいのだ。察してやれ。」
「そうか。」
俺は苦笑いした。でも、紅葉はちょっと苦手なので会えなくてほっとした。

俺の腹帯の入った袋を持っている方の腕が急に重くなった。
下を見ると、1歳位の子どもが袋を引っ張っていた。

「何でこんなところに子どもが?」
俺はこの子どもの脇に手を入れて持ち上げた。
小さな見た目に反して、ずっしりと重みを感じた。
急に持ち上げられたためか、きょとんとしていた。

「この童は、この八幡宮の宮司の息子だ。
名を『國吉(くによし)』と言う。
最近歩けるようになったので、勝手に出てきてしまったようだな。」
涼見姐さんが子どもの頭を優しく撫でた。
姐さんのここまで穏やかな表情は、はじめて見た。

「夏越、お前社務所まで國吉を送り届けてくれぬか。
御涼所は見晴らしはいいが、柵はあっても崖になっていて危ない。」

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