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紫陽花の季節、君はいない 16

夏至の日食の日、確かに俺は紫陽に「ずっと待っている」と誓ったのに。
悲しみに心を蝕まれて、いつの間にか忘れてしまっていた。

「──今はもう会えないけど、彼女と約束したんです。『また会おう』って。
別れが悲しすぎて忘れていたけど、思い出しました。」
「そうなの。また会えるようになると良いね。」
「…ありがとうございます。」

二人の関係を肯定してもらえて嬉しかった。
人間と精霊との恋は禁忌だったから。

でも今度会うときには、人間同士だ。
もう、禁じられた恋ではない。

俺は程よく冷めた甘酒を飲み干し、國吉と母親に見送られて八幡宮を後にした。

春の陽光のような暖かな出会いに、紫陽との再会を信じる勇気を得た。

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