紫陽花の季節、君はいない 84
「なぁ、柊司。ひなたを抱っこして良いか?」
「ん?ああ、良いぞ。」
俺は柊司からひなたを受け取った。
「…温かいな。」
「赤ん坊は大人より体温高いからな。」
ひなたは小さな口いっぱいに大きなあくびをした。
「なあ、夏越。」
「何?」
柊司が神妙な顔をしている。
「あの時、倒れていたのは…本当は──」
柊司は何か言いかけたが、俺の表情に緊張が走ったのを感じたのか、言うのを止めた。
柊司、何も言えなくてすまない。
紫陽は人間ではなかったから、俺が勝手に精霊の話をしてはいけない。
せめて、彼女の生まれ変わりに再会するまでは。
「柊司、いつかは話すよ。」
「そうか。」
俺はひなたを柊司に返した。
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