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夢見るそれいゆ 72

「ちょうど紫陽が朔と境内を散策するのに、あの男…夏越と離れたから、私は以前の辛辣な態度を詫びたわ。
『紅葉、別に謝らなくてもいいのに。
あの時は紫陽の件で必死だったんだろう?』
夏越から愛する人が還ってきた余裕を感じたわ。
『あの時は、紫陽の残された時間が少なくて焦っていたの。貴方が知らないとはいえ、紫陽にいつもの時間に会いに来なかったのが、腹立たしかったのよ。』
今まで徹底して避けてた人間と、こうやって腹を割って話しているのが不思議な気持ちだったわ。
『分かってたら、もっと一緒の時間を取れたのにな。』
『あの子、貴方に悲しい顔をさせたくないから、ギリギリまで黙ってたのよね。』
夏越は虚空を見上げて、15年前のことを思い起こしているようだったわ。」

私の知らない時代の夏越クンとクレハ。
きっと、私が思う以上に複雑な心境だったに違いない。

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