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紫陽花の季節、君はいない 1

「紫陽花の季節」の主人公、夏越の物語です。
時系列はひなたが生まれる前です。


2021年5月半ば。どんよりとした曇り空。
今年の梅雨は、6月を待たずに到来しそうである。

「夏越くん、そんなに空を見上げていたら首が痛くなるわよ。」
柊司の部屋のベランダから空を眺めていた俺に、あおいさんが話し掛けてきた。

あおいさんは、お腹の子がかなり大きくなってきている為、産休に入っている。
昨年よりも大学院は対面授業は増えたものの、今日みたいにオンライン授業の日は、空き時間に家事を手伝いに来ている。

「あおいさん、洗濯物取り込み終わったよ。」
「ありがとう、夏越くん。とても助かるわ。」
俺は洗濯かごを持って室内に入り、ベランダの扉を閉めた。

「あおいさん、お茶淹れるからコンロ借りるよ。」
俺はガスコンロのスイッチを押して、やかんでお湯を沸かした。

「夏越くんがいると、沸かしたてのお茶が飲めるから嬉しいわ。」
あおいさんは極度の料理音痴で、ガスコンロを炎上させた過去がある為、一人の時は調理が出来ない。
(俺も料理は苦手だが、カップ麺を作る位は出来る。)

俺はたんぽぽ茶のティーバッグを入れたコップに優しくお湯を注いだ。
たんぽぽ茶(別名たんぽぽコーヒー)は、あおいさんの為に柊司が買ってきたものだ。

「いただきます。」
女性が苦手なのに、あおいさんとこうしてお茶を飲む日がくるなんて1年前は思いもしなかった。

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