紫陽花の花言葉 17
父は静かに目を閉じ、声にせず何かを呟いた。自分自身に向けてなのか、心の中の前妻に向けてなのか。意を決した父は、再び目を開けた。
「──俺が夏越を遠ざけていたのは、透子の意志を尊重したからなんだ」
俺たちは耳を疑った。実の母が、息子を遠ざけるよう遺言を遺したとでもいうのか。
「清明、うちの一族に男子がお前たちの他にいないのは……知っているな?」
「うん。だから、母さんは跡継ぎになり得る兄さんを疎んじてたんだ。母さんは、俺を跡継ぎにしたかったから」
「透子は……夏越をこの家に縛り付けたくなかったんだ。夏越が生まれた時点で、夏越は次期当主になる宿命を背負うことを、透子は嘆いていたんだ」
透子さんも兄を跡継ぎにしたくなかったということなのか?
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