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風鈴と【#シロクマ文芸部】

風鈴とすだれが縁側に下げられた古い家。瓦屋根だが、家の中に入ると、茅葺きの面影を残している。

伯母の家に夏休みにやって来た、十三歳の葉七は、昔は明るい性格だったが、中学に進学してからあまり喋らなくなってしまっていた。

葉七は、宿題の読書感想文の為の本を縁側の廊下で読んでいるうちに、いつの間にか眠ってしまった。

「スイカ切ったから、食べにゃあ!」
伯母の明るい声に起こされ、葉七はオヤツのスイカを黙々と食べる。

「葉七ちゃん、これ食べ終わったら『ハナ』の散歩行って来てくんちょ」
『ハナ』とは、子どものいない伯母が『葉七』の名前をとって飼い始めた白犬である。

「え……私、この辺の道知らないよ」
葉七は不安になった。
「でぇじょうぶ、散歩の道はハナが覚えちょる。そのまま、一緒に歩いていけば帰って来られる」
伯母は明るく笑った。

ハナはどんどん歩いて行く。葉七は怖くなって泣きそうになったが、堪えた。

無事に帰って来られた時には、伯母の前で大泣きしてしまった。

「ハナに委ねれば、ちゃんと帰って来られたべ?」
伯母が頭を撫でてくれた。

遠い遠い、今はなき古い家での夏の思い出。


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