紫陽花の季節、君はいない 13
「はーい。ちょっとお待ち下さい。」
明るい女性の声が社務所の奥から聞こえてきた。
女性が苦手な俺は、緊張で変な汗をかき、心拍が早くなっていた。
「あーうー。」
抱いている國吉の小さな手が俺の顔に触れた。
どうやら、俺のことを心配してくれているらしい。
「國吉、心配してくれたのか?ありがとう。」
俺は國吉の柔らかな頬を人差し指で優しく触れた。
「あら?國吉、外に出ちゃってたの?
貴方が連れてきてくれたのね。どうもありがとう。」
現れたのは、國吉の母親だった。
年齢は俺と同じ位か、少し上に見える。
母親。俺を冷たくあしらっていた義母が脳裏に浮かんだ。
目の前の女性は、義母ではないと分かっているのに、どうも体が強ばってしまう。
國吉を引き渡してこの場を早く離れよう。俺は抱いていた國吉をぎこちなく母親に差し出した。
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