紫陽花の季節、君はいない 29
「夏越、気がついたか。」
今俺がもたれ掛かっているケヤキの精霊、涼見姐さんが眉間にしわをよせて、顔を覗き込んできた。
「姐さん…何で此処に?」
「それは此方の台詞だ。
ギリギリ頭が鳥居の内側に傾いたから、私は本体の枝をへし折って、お前の体を境内に入れて此処まで運んでやったのだ。
骨…いや枝が折れたわっ!!」
姐さんが俺に対して不機嫌なのは通常運転だが、どうやら心配してくれていたらしい。
俺の傍らには、折られて時間の経っていない太い枝が置いてあった。
「ごめん、姐さん。痛かっただろうに。」
俺は姐さんの枝を撫でた。
「心配御無用。それより夏越、それを持ち帰れ。此処に置いていては朽ちるだけだが、家に置いておけば護身用にはなるだろう。」
姐さんの表情は真剣そのものだ。
「どうして皆、俺を弱いもの扱いするかな…って、こんな所で気を失ってるからか。」
俺は力無く笑った。
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