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紫陽花の季節、君はいない 7

眠りから覚めると、雨音が聞こえてきた。
紫陽との会瀬は、梅雨の時季だけあって雨の日が多かった。
「ナゴシ」
もう聞くことの出来ない彼女の声。
俺はあれから、人知れずどれ程泣いただろう。

外の空気が吸いたくなって、ベランダの戸を開けると、洗濯物が干してあった。
ここが自分の部屋でなく、柊司の部屋だということを思い出した。
急いで洗濯物を取り込んだので、びしょ濡れにはならなかった。

秋の彼岸頃まで、俺は柊司の家に厄介になった。
(オンライン授業で使うノートPCは柊司が俺の部屋から運び出してきた。)
この時に俺の家事のスキルは、柊司によって少しだけ磨かれた。
「もう空腹で倒れるなよ!」
柊司に念押しされて、俺は自分の部屋に帰ってきた。

俺は部屋がとても荒れていることに気付いた。
倒れる直前までの精神状態がそのまま現れていた。
帰ってきてまずやったことは、片付けだった。

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