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時を超え晴れの日にあやかれる「寿(ことほ)ぎのきもの ジャパニーズ・ウェディング』ブロガー向け展覧会

福井市郷土歴史博物館にて10月8日から11月23日まで開催中の、令和4年秋季特別展『寿(ことほ)ぎのきもの ジャパニーズ・ウェディング』ブロガー向け展覧会に参加をさせていただきました。江戸時代から近代初期までのあでやかな婚礼衣装やしつらえ約160点が、豪華絵巻のように展示されています。日常を思わず忘れてしまう夢のようなひとときでした。

*ブロガー向けの展覧会ということで、一部を除いて、ふだんは禁止されている写真撮影を特別にご許可いただいています。

目次
1・松平家伝来の打掛も!豪華絢爛な江戸時代の武家の婚礼衣装
2・白、赤、黒、青は寿(ことほぎ)のいろ。
 ~江戸時代の町人の婚礼のお色直し
3・ブラックフォーマルと百花繚乱。~近代の婚礼衣装
4・1555年創業の京友禅の老舗千總家・信濃の豪商田中家の婚礼衣装
5・感想とこれからのご案内

1・松平家伝来の打掛も!~豪華絢爛、江戸時代の武家の婚礼衣装


展示会場は、一階☆江戸時代の大名家の婚礼〇江戸時代の町人の婚礼と、
二階☆明治時代から昭和初期の婚礼の構成となっています。

まず一階の会場から。
なんて美しいんでしょう!18世紀後半から19世紀、江戸時代後半ごろの武家の婚礼時に着用された衣装です。白の衣装にも、空いろの衣裳にも金の糸がほどこされ、丹念で芸術的なししゅうから、凛とした品格が伝わってきます。

優雅な綸子地の、蓬莱模様打掛です。
品格のある打掛は越前松平家伝来です。

写真のふたつの衣裳のように、波と岩座(いわざ=岩をかたどったもの)に松竹梅や鶴亀をあらわした吉祥を「蓬莱(ほうらい)模様」といって、武家の婚礼衣装によく使われたそうです。
「蓬莱」のように、日本の伝統や花鳥風月が目に浮かぶ「見る日本語」に出会えるのも、着物の楽しみのひとつ。

上記の豪華な衣裳、将軍家の姫君が着用されたのかと思っていました。意外にもふたつとも武家に仕えていた女中さんが着用されたと考えられるそうです。

武家の婚礼においては、花嫁も儀式に奉仕する女性も、白無垢、赤無垢を着たあとは、蓬莱模様の打ち掛けを着た。また、花嫁に付き添って婿の屋敷に引っ越す女性も蓬莱模様の打ち掛けを着た。

福井市郷土歴史博物館の展示の解説より

上記の写真の白い打掛は、武家の婚礼の儀式に奉仕する女中さんが着用したと考えられ、空色の打ち掛けは、花嫁さんがお興(こし)入れでお婿さんのお屋敷に引っ越すときの付き添い時に着用したものだそうです。
婚礼の儀は、家の威信かけての雅やかな一大行事であったのですね。

身分制度が厳然とあった時代。花嫁さんも女中さんも、同じ蓬莱模様の打ち掛けを着用したのなら、格の違いはどのあたりで表していたのでしょうか?

学芸員さんのお話では、江戸時代は、身分の格によって身に着ける布地も違い、最高峰は白無垢などに使われる綾織(あやおり)。その次が綸子(りんず)。三番目が紗綾(さや)、そして四番目が縮緬(ちりめん)だったそうです。

上の白い打ち掛けの布地は綸子、空色の打掛は縮緬で、姫君様が着用する格の布地ではないので、おつきの女中さんが身に着けたと考えられるとのお話でした。典雅で美しい婚礼の情景が目に浮かぶようです。
江戸時代の武家屋敷の女中さんにスポットをあてて歴史を紐解くのも興味深いですね。

江戸時代には、大名や旗本などの武家の邸宅では、当主を中心として公的な事務をする「表(おもて)」と、当主の妻や家族が生活する「奥」が明確に区別され、江戸城の場合は大名家と区別して「大奥」と呼ばれておりました。女中として武家屋敷に勤めることを「奉公」といいました。裕福な商家や農家では、娘を女中奉公に出すのは花嫁修業の一環で、とくに武家屋敷の奥奉公は憧れであったといわれています。格式の高い家で働くことは良縁に恵まれるからです。幼い頃から奥奉公に備えて行儀作法を厳しくしつけ、書道や華道、楽器や茶道などを習わせていたそうです。

例えば土佐藩上屋敷での奉公の試験は、手跡、和歌、音曲であった。他の大名家でも同様の試験があったという。(中略)茶の湯もまた武家奉公を目指す娘にとって有効な芸能であったことがわかる。(中略)家庭内の次世代の娘を武家奉公に出すことは一つの夢であり目標であった。

「江戸時代の女性の稽古事からみた日本意識の形成」谷村玲子 国際日本学より

武家屋敷でのご奉公は、当時の憧れの職場。女中さんは女性のエリートだったのですね。
このような豪華な打掛を、姫君はもとより、おつきの女中さんにも用だてることができた松平家の
伝統を感じる着物です。

2・白・赤・黒・青は寿(ことほぎ)のいろ~江戸時代の町人の婚礼のお色直し。

さらに進むと、江戸時代の町人の婚礼衣装です。婚礼をあげられたのは町人のなかでも裕福な層でした。宴会でのお披露目のためにお色直しもさかんで、吉祥模様をあしらった白地・赤地・黒地の打掛をひとそろい順番に着替え、さらに4着目として、黒地のあとに青地の打掛も着用したそうです。

写真は滋賀県近江八幡市の近江商人の旧家に伝わる白・赤・黒の打ち掛けです。近江商人といえば、江戸時代中期に北前船が登場する前、北海道の産物を福井県の敦賀から琵琶湖経由で大阪に運んで財を得たという記述があるように、裕福なな商人さんだったようです。

化学染料もなかった江戸時代。赤い色は紅花を用いていたそうですが、なかなか手に入らないであろう貴重な紅花で保温効果もあったそうです。

近江商人が、海運によって、貴重で高価な紅花を山形から上方や江戸に運んで大きな富を築いた記事が日本遺産として残っている記事がありました。
当時は材料でお支払いをしていたとのことで、染め屋さんに直接、紅花を渡していたそうです。愛娘さんへのお祝いへの心がこもっていることを、衣装からも感じて、胸が熱くなります。

白地・赤地の打掛
黒地の打掛

なぜ、お色直しの色「寿(ことほぎ)の色」に、白・赤・黒が選ばれたのでしょうか。また4色目の色に青が用いられたのはなぜでしょうか。そこには深い理由がありました。答えはこの展覧会で出会うことができますので、ぜひ直接、本物をごらんになってください♡

青地の打


左は19世紀後半の江戸時代の近江八幡市・近江商家の婚礼衣装。桐唐草模様打掛

ひとつひとつの衣裳に、丁寧に解説をつけてくださっているご配慮も嬉しいです。自然界とは違う、人の手が感じられる芸術品は、背景を知ることで理解を深めることの手がかりになると思いますので、学芸員さんの解説や博物館での解説を積極的に読みたいと思います。

江戸時代から明治・大正時代のお子さんの着物も、展示されています。
一つ身(ひとつみ)といって、乳児から三歳くらいのお子さんに着せたそうです。グレーの着物の背中に飾りがあるのがわかりますか?
この飾りにも、名前と、子どもへの愛情に基づいた理由があるのです。

江戸時代から明治時代の子どもの着物です

武家の産着です。格の高い綾織りです。産着にオーラがあって、光輝いているようにみえます。

3・ブラックフォーマルと百花繚乱~近代の婚礼衣装

二階に上がると、白無垢の花嫁衣裳が出迎えてくれました。こちらの婚礼衣装は写真撮影可能です。

白無垢は、威厳と優雅さが格別ですね。現代でも、お式は白無垢で、三々九度の儀式を交わしたりしますね。

白という色は何にでも染まるので、婚家にこれから染まるという意味や、邪気を払って神聖な儀式に臨むという由来があるそうです。

白無垢の花嫁衣装についての詳しい解説は、展示会のホームページのスペシャル動画で、拝見することができます。日本の心が愛おしくなるような気持ちになれました。

綿帽子です。


明治時代になりると、士農工商が取り払われて、婚礼をあげる階層が増え、化学染料や織機も導入され、機械で生産できるようになって供給や需要も増えていきました。

明治初期の頃は、江戸時代の富裕層の町人の婚礼でお色直しに白、赤、黒の打掛を順番に着替えた流れを組み、三色の振袖を重ねて着るようになったそうです。十二単衣まではいかないけれども、重ねて着ているところも見てみたいですね。

18世紀前半にはドイツのベルリンで偶然に発見された鮮やかな青い化学顔料も日本に輸入され、北斎ブルーとして、北斎の浮世絵にも用いられたり、19世紀から天然藍は次第に使われなくなりインディゴが着物にも使われるようになるなど、化学染料の普及で、薄い赤や、紫なども使われたそうです。

江戸時代の町人の婚礼で花嫁がお色直しに白・赤・黒の打掛を順に着替えていくことから始まり、明治時代にはこの三色の振袖を重ね着するようになったが、やがて三色が持つ本来の意味が忘れられていくと、これらに類似した色を新しく輸入されるようになった化学染料で染め直すようになった。白に代えて薄茶・赤に代えて橙色、黒に代えて紫といった具合である。

福井市郷土博物館の展示解説より
三つ重ねの色の振袖
下から白・赤・黒の順に重ねて、帯を締めて着用したそうです。それぞれ、梅・竹・松があらわされています。

明治時代末期から昭和前期にかけては、黒地の振袖が主流になりました。婚礼をあげる階層が広がって、経済状態にみあった経費で婚礼を行うようになったので、白・赤・黒の三つ重ねの衣裳のうち、白と赤の衣裳を省略して、吉祥の入った黒を着るようになりました。

江戸時代以前は、黒い色は酸化していくので貴重な色でした。明治時代から安定して黒い色が出せるようになったことや、西洋のブラックフォーマルの影響もあるそうです。
やはり黒も白と双璧で特別に高貴な存在感のある色ですね。


黒縮緬地若松模様振袖。


4・1555年創業の京友禅の老舗千總家・信濃の豪商田中家の婚礼衣装千總家の婚礼

続いて、京友禅の老舗でありパイオニアでもある憧れの千總さんに大正時代に嫁がれた花嫁さんの婚礼のお衣装です。
千總さんのお着物は可憐で上品な図柄や色、職人さんの丁寧な仕事に、みているだけでしあわせな気持ちになれますね。

写真は婚礼衣装のごくごく一部で、
まだまだ、たくさんの婚礼お衣装が展示されているので、ぜひ会場にてこのあとはゆっくりごらんくださいね。

惚れ惚れします💕
さわやかなお色です

また、お写真は撮影していませんが、江戸時代に代々、信濃の須坂藩の御用を務め、北信濃屈指の大地主である田中家の婚礼のしつらえも当時の面影を伝える豪壮なお屋敷や庭園の映像や、
田中家の婚礼のお料理のレプリカの展示や
花嫁さんが着装された白無垢なども拝見できます。

この展示会ならではの貴重な展示なのでぜひ、華やかで温かな宴の雰囲気なども堪能してください。


5.感想

とっても見ごたえのある展示でした。
しあわせの極致、贅の極致の婚礼衣装。
芸術品として、日本の美意識の高さに
見ているだけで華やかな
気持ちになれました。
晴れ着は心も晴らしてくれますね。
保存状態も美しく眼福でした。

ひとりの女性が人生にたった一度の晴れの日を迎える感動と、しあわせをお祝いする周りの温かな気持ち、衣装が出来上がるまでの職人さんの丁寧な手仕事など、いろんな技と想いの結集を、何百年もあとに生きている現代のわたしが受け取らせていただきました。

帯や紐を固く結んで着物をまとうように、着物は世代を超えて人と人を結ぶものだとあらためて感じます。

また、白無垢や、未婚の女性と婚姻後の女性の
袖がちがうように、昔は節目というか、けじめを
はっきりつけていたと感じました。

11月1日からの後期展示は入れ替えもあります。今回はミュージアムグッズを買うことができなかったのですが、美しい打ち掛けのしおりも会場でみかけたので、ぜひ次回はそちらも見てこようと思います。

解説してくださった学芸員さま、またこのような貴重な素晴らしい機会を企画してくださった福井市立郷土歴史博物館のみなさま、ほんとうにありがとうございました。

講演会やみどころ講座やワークショップもあるので、詳しくは福井市立郷土歴史博物館のWEBサイトをごらんくださいね。

長文にお付き合いくださり、ありがとうございました。

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展覧会名
寿ことほぎのきもの
ジャパニーズ・ウェディング― 日本の婚礼衣裳 ―
会期
前期:10月8日(土)~10月30日(日)
後期:11月1日(火)~11月23日(水・祝)
※前・後期で大幅な展示替えがあります。
※10月31日(月)は展示替えのため休館します。

開館時間
午前9時~午後7時
※11月6日からは、午前9時~午後5時(入館は閉館時間の30分前まで)
会場
福井市立郷土歴史博物館


講演会「近世・近代の婚礼衣装-色と模様に見られる日本人の価値観-」

日時 10月30日(日)14時~15時30分
会場 福井県国際交流会館(博物館から徒歩5分。展示会場とは別施設です。)
講師 長崎巌氏(共立女子大学教授・共立女子大学博物館長・本展監修)
定員 80名(申込先着順、要事前申込)
申込 10月1日(土)より下記リンク先のWEB申込により受付
   https://forms.gle/BNZ2KhvKEEVqL3EK9
※参加には別途特別展観覧券が必要です。

見どころ講座

日時 10月22日(土)、11月12日(土) いずれも15時より約40分間
会場 当館講堂
定員 20名(申込先着順、要事前申込)
申込 10月1日(土)より下記リンク先のWEB申込により受付
   https://forms.gle/kGiuRFR5gvxTLgJm9
参加費 100円 ※別途特別展観覧券も必要です。

ギャラリートーク(展示解説)

日時 10月10日(月・祝)15時~、11月4日(金)18時~ いずれも約40分間
定員 20名(当日先着順)
※参加には特別展観覧券が必要です。

ワークショップ「水引きアクセサリーを作ろう!」

日時 10月15日(土)、11月3日(木・祝) いずれも14時より約40分間
定員 5組(1組4名まで、申込先着順、要事前申込)
申込 10月1日(土)より下記リンク先のWEB申込により受付
   https://forms.gle/V4VpB9H3TjZcqiB59
参加費 200円 ※別途特別展観覧券も必要です。

ワークショップ「へんしん越前屋で打掛を着てみよう!」

会期中の土日祝日 13時~15時30分 着付にかかる時間は約30分間
対象は身長140㎝以上の人
当日先着順 参加費 無料

おまけ。

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