最初の雨つぶ

年が明けて最初の雨の、
最初のひとつぶに当たった人は
ひとつだけ願い事が叶うという

だから僕は最初の雨が降るその日には、
いつも外に出て待っていた。

来る年も来る年も
ただ待ち続けて、
願いが叶わないと、
それは最初の雨つぶではなかった
そう思いながら

来る年も来る年も
ただ待ち続けた

ある年の元旦。
初日の出と一緒にテレビで見た天気予報でも
本日は快晴だった。

僕は家の前の道路に出て、空を見上げる。

すると、おおよそ雨など降ってきそうもない
冬の凍てつく快晴の中、
キラキラ光るものが、空から落ちてきた。

僕は、あれは最初の雨つぶだと、
なぜだか確信した。

ゆっくりゆっくり落ちてくる雨を追いかけて
逃さないように、必死で走る

そしてようやく追いついて、
降ってきた雨つぶは、
僕の手に触れた。

それはとても暖かく
冬の寒さを忘れてしまうような
春の木漏れ日のような暖かさだった。

そして、なつかしい匂いがした。
振り向くとそこには母さんが立っていた。

僕を産んでくれて、
すぐに亡くなってしまったお母さん。
来る年も来る年も、
願い続けて待ち続けた。
会いたくて会いたくて、待ち焦がれた。

お母さん!

お母さんに抱きつくと、
お母さんは、僕の名前を呼んで、
抱きしめてくれた。

僕が産まれてから
89年目の年明けの出来事でした。

雨に打たれ、冷たくなった僕のぬけがらは、
幸せそうな顔で横たわっていました。

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